「エストニアのサウナ文化に触れる旅」UNESCO無形文化遺産に登録されたエストニア・スモークサウナ文化を訪ねて

「エストニアのサウナ文化に触れる旅」UNESCO無形文化遺産に登録されたエストニア・スモークサウナ文化を訪ねて

@ヴォル, エストニア  Võru, Estonia / October, 2015

 

  • 入浴体験

    登録裏話編
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Moi!ショウ吉永です。

今回は、2014年に無形文化遺産登録されたエストニア・ヴォル地方のスモークサウナ文化についてレポートします。

それはどんなサウナ文化なのか?
なぜフィンランドではなくエストニアのサウナ文化が?
気になる部分をまとめてレポートします!

同じバルト海沿岸文化でもフィンランドとはひと味違いそうなエストニア・ヴォル地方のサウナスタイル、僕も楽しみです!

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無形文化遺産登録までの経緯

エストニア・ヴォルでのスモークサウナ体験ができるムースカファームに到着した私たちは、今回どのようにしてユネスコ無形文化遺産に登録されることになったのかをエダさんに聞くことができました。

「私たちがスモークサウナ文化保護のために活動していたのは、スモークサウナがこの地区のアイデンティティだと考えていたことと、だんだんとこの地のスモークサウナが少なくなっていたからです。それは、ソ連による支配が行われていた最中の1970年代から、近代化の波に押され、スモークサウナは消滅の危機を迎えていたのです。」

「そんな2009年、エストニアのスペシャルデイ(祝日)である春分の日のことです。現地の農家の人たちと共にサウナイベントを行いました。そのとき、父と一緒にスモークサウナに入りながら『このすばらしいサウナ文化を世界遺産のように保護できないか』と考えついたのです」

 

登録までの秘話

登録には大変な苦労があったと思いますが、具体的にどうだったかをエダさんに聞きました。

「まず、ユネスコに『世界遺産に登録させて欲しい』とメールをしました。その返信メールで私ははじめて登録までの手順を知ります。それから約2ヶ月間、私は100人以上の人とコンタクトをとり、その中で私はヴォルに住む芸術家のエップさんと政府機関で働くキューリさんと出会うことができました。私たちは登録に向けたミーティングを重ね、スモークサウナ無形文化遺産の登録に向けての活動をはじめたのです」

「そこから流れは加速しました。エップさんの持つたくさんの絵や写真を活かして映画や本を作りました。それを公開すると、周囲の人々の意識が変わってくるのを感じました。たとえば近代化後のスタイルである煙突付きサウナよりも煙突のないスモークサウナの方が素晴らしいよね……というように、地域全体で『ヴォルの伝統的なサウナスタイルを守ろう』という意識が高まっていったのです」

「そして4年の月日が流れ、2013年、ユネスコへの申請のために必須であったエストニア大臣の承諾を得ることができました。さらにサウナ文化を重んじるフィンランド大使館の職員の協力も得られたのち、2014年11月、ついに登録が実現したのです」

エダさんたちは笑顔を見せながら言いました。「私たちが誇りに思うのは、今回の登録が、スモークサウナそのものだけでなく、この地域で伝承されてきた知識や精神(スピリッツ)を包括した無形文化遺産として登録されたことです」

 

今後の展開について

ちなみに今後はどのような展開を考えているのか、うかがってみました。

「今後の課題は4つです。ひとつは私たちの文化を広く知ってもらうためのプロモーションを行なうこと。そして観光などのビジネスを通じてスモークサウナや私たちが持つ知識を活用していくこと。そのためにも、民俗学的な研究を通して、私たち自身がヴォルのサウナ文化を深く学んでいくこと。もちろん教育も大切です。地域の幼稚園を通じて子どもたちへのサウナ文化教育にも取り組んでいく予定です、この4つの行動を通して、エストニアの観光資源にできればとも考えています」

地区の伝統を未来へ橋渡しするために、エダさんたちの活動はまだまだ続いています。

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ついに体験!ムースカファーム(エダ家)のスモークサウナ

話をうかがった後、私たちはムースカ・ファームのスモークサウナを体験させてもらうこととなりました。そのとき、エダさんから質問を受けました。「おしゃべりや撮影一切なしでの(神聖な)儀式的スタイルと、リラックスして話を楽しめるラフなスタイルと、どちらで入浴しますか?」

もちろん私たちが選択したのは、より神聖な儀式的スタイルでの入浴です。

神聖で儀式的なスモークサウナ入浴

入浴前、私たちの手首には穢れを清めるための赤い紐が巻かれました「入浴中は余計なことを考えず、できるだけ頭をからっぽにしてくださいね」とエダさん。

入浴についての詳細は記載しませんが、この時はサウナ入浴とクールダウンを4回繰り返す入浴方法を体験しました。その間には、邪気払いのために身体に塩を摺りこんだりと儀式的な要素も多くありましたが、ロウリュやヴィヒタ、蜂蜜オイルでのマッサージなど癒やしの要素も取り入れられていました。エダさんが鳴らすシャーマンドラムの音とエダさんの歌《自分の身体や自然への感謝を表すような歌》に包まれて、ヴォルの人々の伝統と精神性を感じることのできる入浴体験でした。

ちなみにヴォル地方では各家庭それぞれに先祖代々受け継がれるサウナ儀式があるそう。しかし、その方法は門外不出。決して外部には漏らさないのだそうです。

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ヴォル族の伝統を感じる貴重な体験ができました。
サウナのレジャー性とは別の一面に触れたことがうれしい!

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サウナの聖地を訪ねて

旅の最後の日に、私たちは、エダさんたちが『サウナの聖地』と呼ぶ場所に向かいました。そこは、かつてこの土地に流れ着いた人々が《新しい場所に移り住んだときは聖地を定める》という考えのもと、自分たちの聖地として選んだ場所。

聖地は、サークル上に木の生えた不思議な空気感漂う一角に存在しました。サークルの中心にあったのは、いくつかの大きな石とお賽銭。

「この石や地面に触り、希望や願いを胸に浮かべながら祈ってください。そして、周囲の木の枝に赤い糸を結んでください」と教えてくれたのはシャーマン(祈祷師)である男性。「私は自分の娘が産まれるときに《キレイな子になるように》と祈った。そしてこのようにかわいい娘が生まれました」と同行する娘さんを指して笑っていました。「大切なのは、その祈りにどんな意味があるか、です」という深いメッセージも聞くことができました。

聖地を離れて歩くと、敷地内に、薪を燃やして準備をしている最中のスモークサウナを見つけました。もしかしたら、ヴォルの人々にとっていちばんの聖地は自宅のスモークサウナかも知れない……そう考えながら私は帰国の途に付きました。

ムースカファームでエダさんが奏でてくれたシャーマンドラム。サウナ入浴中にも同じ歌を歌ってくれました。

人々の熱い想いや信仰に触れる素晴らしい旅でした。
サウナの世界は本当に奥深い!
僕はサウナが大好きです!!

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形のないもの、かげないないもの

無形の文化や伝統は時代にそぐわなければ否定され改良され、時には消えてゆくもの。サウナも時代と共に変化し、現在へと受け継がれてきています。そんな中、世界にまだまだ古来の伝統的なサウナスタイルが存在することを体験できたのは非常に感慨深いものがありました。

人に関する礼儀・作法も数年数十年で随分と変容していく現代、スモークサウナという場を通して、礼儀・作法のみならず、家族や来客へのもてなし、信仰や自然への感謝の心などが受け継がれているということも無形文化遺産の評価を受けたポイントのように思われました。

ヴォルの人々の在り方の素晴らしさ、そしてヴォルのスモークサウナ文化によって受け継がれていくものの素晴らしさに感服し、私たち日本人のサウナ文化もまた、世界の温浴文化の中でかけがえない文化だと再認識できた旅でした。

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ショウ吉永 Profile

 

福岡県生まれ。株式会社メトス代表取締役。本名・吉永昌一朗。

幼少期にボーイスカウトで自然と人の共存の重要性を学ぶ。航空自衛隊で整備士として働いていた時代、基地内にあるサウナへ同僚達と通ったことが、サウナの魅力を知るきっかけとなった。その後、アパレル業界、照明インテリア業界を経て、メトスへ入社。異色のキャリアならではの発想力と行動力で、日本の温浴文化を活性化させている。全国のサウナにロウリュを定着させるため、旧中山産業(メトスの前身会社)が蓄積していた膨大なノウハウと情報を活用し、「ikiサウナ」や「サウナisness」といったロウリュが可能なサウナヒーター、アウトドアでサウナ浴ができる「テントサウナ」など、これまでにないサウナを日本に広めた。近年は、サウナとエンターテイメントを融合させる「ロウリュ熱波隊」プロジェクトや、サウナヨガなど、サウナの新しい楽しみ方を研究・提唱している。共著に「温泉の百科事典」など。

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ミッコ・パランデル(Mikko Palander) Profile

 

フィンランド中部の、森と湖以外何もないレイヴォンマキ村で生まれ育つ。幼少期は、放課後に毎日10キロ以上自転車をこいで一番近かった友達の家に通い、その経験が後に長年の趣味となる筋トレに目覚めるきっかけとなった。中学生の時に、父親と村の大工と一緒に自宅の庭にゲストルームつきのサウナ小屋を建て、サウナ室も自ら施工した経験を持つ。ユヴァスキュラ大学に入学後は、アジア史を勉強しながら日本語の学習をはじめ、2012年には金沢大学に一年間留学。しかしなぜか普段は関西弁を話す。在学中から、柔道やブラジリアン柔術など数多くの武術に打ち込んでいる。現在は、メトスのヨーロッパ事業開発コーディネーターとして、フィンランドを拠点に現地視察コーディネートや通訳翻訳、仲介業務などを行なっている。

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ムースカファーム

Mooska Farm

 

<住所><TEL> +372-(0)503-2341
<URL> http://www.mooska.eu