「ドイツサウナ文化の現在を知る旅」古代からの歴史を持つ温浴中心の観光保養都市 バーデン・バーデン
グーデンタグ! ショウ吉永です。
今回は2016年夏に訪問したドイツの温浴事情を二回に分けてレポートします。
第一回目はドイツの温浴文化を語る上で欠かせない観光保養都市バーデン=バーデンの紹介です。
温浴施設の体験レポート、マネージャーインタビューにもご注目を!
ドイツ、そしてバーデン=バーデンについて
ドイツ連邦共和国は、中央ヨーロッパに位置する国。アルプス山脈から北ヨーロッパ平原を横断、さらに北海やバルト海にも面する国土は、ヨーロッパで第7位の広さです(人口ランキングでは第2位)。
今回訪れたバーデン=バーデン(Baden-Baden)は、ドイツ南西部のバーデン=ヴェルテンブルグ州に属する独立市。フランクフルト空港から16Oキロ、シュトゥットガルト空港から60キロ、そして黒い森と呼ばれているシュヴァルツヴァルトの北側に位置します。
古代から温泉保養地として知られていたバーデン=バーデンですが、17世紀、戦争によって一時荒廃。しかし鉄道などの交通網や宿泊施設が整った19世紀になると、多くの観光客(特に王侯貴族や文化人)が集まり、高級温泉保養地として世界に名を広めたのだそうです。
ちなみにバーデンとは、温泉、温浴という意味。その名の通り、街の観光資源のメインは温浴施設ですが、他にも、かのマレーネ・ディートリッヒが「世界で最も美しいカジノ」と賞賛したバーデン=バーデン・カジノ、美しい『社交館』のあるクアハウス、ヨーロッパ第二位の規模を誇るオペラハウス、古城やローマ浴場跡、美術館など見どころがいっぱい。美しい自然にも囲まれた、あらゆる人が豊かな時間を過ごせる保養地となっています。
優雅な療養を楽しめる「フリードリヒスバード」
バーデン=バーデンに到着した私たちは、街が誇る2つの施設「フリードリヒスバード」と「カラカラテルメ」を訪問しました。
まずは、フリードリヒスバード(Friedrichsbad Baden-Baden)。約140年前、ローマ浴場跡地に建てられたルネッサンス様式の建物で、創設当時から続く伝統的な入浴プログラムを楽しむ施設です。そのプログラムは、あらかじめ決められた17段階ほどのステップを決められた時間通り体験していくというもの。これは様々な温度帯・温浴方法を楽しむローマ入浴文化と、温風浴を楽しむアイルランド入浴文化が融合して生まれたプロブラムです。
シャワー、低温サウナ(54℃)、低中温サウナ(68℃)、再びシャワー、マッサージ(注:オプション)……と順に取り組むと、徐々にリラックス効果が高まってゆきます。かつてここを訪れた文豪マーク・トゥウェインは「10分すると時間を忘れ、20分後には世界を忘れるよ」と言ったとか。
プログラムの所要時間は、オプションや最後のリラックスタイムを含めて3時間超と決して短くない長さ。しかしプログラム後の心身の幸福感を求めて、多くの人がじっくりとプログラムに取り組んでゆくそうです。
少し時間の足りなかった私たちは、各ステップを少しずつ短縮して取り組むことになってしまいましたが、それでも、美しく静かな館内でプログラムを終えた後のリラックス感はなかなかのものでした。
ちなみにプログラムの多くは男女別の部屋で行われますが、唯一、建物中央にあるローマン・アイリッシュ浴場(大理石浴槽とアーチ天井が見事!)だけは混浴。カップルや夫婦で訪れた人たちは、時間を合わせ、この浴場で一緒にリラックスタイムを過ごすのだそうです。
世界中から観光客が訪れる人気施設「カラカラ・テルメ」
次に訪ねたのが、カラカラテルメ(Caracalla Therme、Caracalla spa)です。カラカラテルメは、フリードリヒスバードと隣接する施設。フリードリヒスバードをバーデン=バーデンの「療養の雄」→落ち着いた古代ローマがテーマの温浴施設とするならば、カラカラテルメはプールも含めサウナ浴を楽しめる施設「レジャーの雄」。カジュアルかつ本格的なクア施設(しかも4,000㎡と広い!)を目当てに世界中の人々が訪れます。実は日本にも、この施設にインスパイアされた温浴施設が少なくありません。
モダンで美しい外観が魅力的な施設は、1階のバーデゾーン(水着着用)と2階のサウナゾーン(水着不可、混浴)に分かれています。
ドーム屋根が印象的はバーデゾーン屋内は、自然光が満ちて開放感たっぷり。ヨーロッパ最大の温泉プールの他、打たせ湯のある洞窟風呂、アロマ・スチームバスなどがそろいます。屋外には流れるプールやジャグジーがあり、ゆったりと楽しめます。
サウナゾーンには、光や音や香りの効果を融合したスペクトラムサウナ、アロマスチームサウナ、山小屋風サウナなど、屋内外合わせて8種類のサウナがそろいます。ドイツ発祥のサウナ・エンターテイメントである「アウフグース(AUFGUSS 直訳:注入、輸液)」も1,2時間おきに行われていて、世界中から訪れるサウナビギナーから熟練のサウナー(サウナ愛好家)までを楽しませています。
尚、ドイツのサウナは全裸入浴、そして男女混浴が基本。そのため日本人、特に女性にはややハードルが高いかもしれません。勇気ある方には貴重かつ豊かな体験をぜひとも楽しんで欲しいと思います。それでもやっぱり……という女性にはレディースデイ(水曜)のみ用意される女性専用サウナ室がオススメです。
認定制度ウェルネス・スター、利用層の変化について
カラカラテルメの視察中、運よく施設のマネージャーであるハーマンさんに出会いました。日本から来たことを話すと、映画『テルマエ・ロマエ』を見たことがあるというハーマンさんは喜んで話を聞かせてくれました。
驚いたのは「フリードリヒスバードとカラカラテルメは、ひとつの会社が管理する兄弟施設」だということ。他にも、こんな話をうかがえました。
「2つの施設は交互に、4年ほどの間隔を開けて改修改装を行っています」
「2つの施設はいずれもウェルネス・スター(Wellness stars)の認定を受けています。ウェルネス・スターとは、ホテルのスパや健康リゾート施設を対象とする認定制度。10年程前からはじまったもので、ドイツの私的団体が認定を行っています。例えるならミシュランガイドのようなもの。基準を満たしたものに最大5つの星が与えられ、ウェブサイトなどで紹介されるんです」
時間はわずかでしたが、様々な手段で付加価値を生み出し続けようとするドイツの人々の姿勢を感じる話でした。
最後に、10年前、カラカラテルメを訪れた時に感じた「利用客はシニア層が多かったはず」という印象を話すと「いまは客層が変化し、10年前よりも若い層(18歳以上)が増えています」とのこと。その変化の理由について聞くことはできませんでしたが、『施設や人々の取り組み次第でまだまだ可能性は開ける』そんな期待を感じることができました。
個性の明確化と、付加価値を高める努力
フリードリヒスバードとカラカラテルメの魅力は、いずれも個性(役割)がハッキリしていることです。「療養」「レジャー」という芯があり、その周囲に歴史的背景や美しい空間、サービスが存在しています。この「芯」がいかにわかりやすく明確かが、競合ひしめくエリアでも輝く施設であり続ける理由ではないでしょうか。
さらに認定制度であるウェルネス・スターの存在も見逃せません。施設それぞれの機能や魅力を顕在化させるこの制度は、利用客にも各施設にもメリットがあるもの。同時に、各施設の付加価値を高めることにも成功しているように感じます。判断基準を明確にしていることは、業界全体の信用向上にもつながっているでしょう。素晴らしい取り組みだと思います。
施設にできることは何か、業界にできることは何か。そんなことを考えさせられる、刺激ある訪問でした。
(2016年6月に取材)
ショウ吉永 Profile
福岡県生まれ。株式会社メトス代表取締役。本名・吉永昌一朗。
幼少期にボーイスカウトで自然と人の共存の重要性を学ぶ。航空自衛隊で整備士として働いていた時代、基地内にあるサウナへ同僚達と通ったことが、サウナの魅力を知るきっかけとなった。その後、アパレル業界、照明インテリア業界を経て、メトスへ入社。異色のキャリアならではの発想力と行動力で、日本の温浴文化を活性化させている。全国のサウナにロウリュを定着させるため、旧中山産業(メトスの前身会社)が蓄積していた膨大なノウハウと情報を活用し、「ikiサウナ」や「サウナisness」といったロウリュが可能なサウナヒーター、アウトドアでサウナ浴ができる「テントサウナ」など、これまでにないサウナを日本に広めた。近年は、サウナとエンターテイメントを融合させる「ロウリュ熱波隊」プロジェクトや、サウナヨガなど、サウナの新しい楽しみ方を研究・提唱している。共著に「温泉の百科事典」など。
Caracalla Therme
<住所>Römerpl. 1, 76530 Baden-Baden, Germany
<TEL> +49 7221 275940
<アクセス> バーデンバーデン駅からバスで約10分 Leopoldsplatz下車、徒歩約5分
<URL> http://www.carasana.de/en/caracalla-spa/home/