わが家のようなぬくもりをつくり出す
<プロフィール>
大下誠人(おおした・のぶひと) |
林智子(はやし・ともこ) |
萩原誠一(はぎはら・せいいち) |
銀木犀の「わが家」
萩原: まずは銀木犀さんについて教えてもらえますか?
大下: うちの会社で運営しているのは、グループホーム銀木犀が2棟、サービス付き高齢者住宅が2棟、計4棟を運営しています。グループホーム銀木犀は、入居者さんがどういう状態であっても、これまでの生活を維持しながら過ごせることを目標にしている施設です。施設という形態でありつつも、あくまでも住居なので、ひとりひとりの家なんですよ。
萩原: ひとりひとりの家、つまり、わが家ということですか?
大下: そうですね。自分の家のように感じてもらえる場所でありたいです。
萩原: なるほど。たしかにここに入ったときに、施設という感じはしませんでした。入居者の方が自由に動いていますよね。
大下: 川崎にもグループホーム銀木犀があって、こことはまた雰囲気が違いますが、同じく施設という感じはしないですよ。市川と鎌ヶ谷にあるサービス付き高齢者住宅も施設のような感じはなくて、普通の賃貸住宅ですし、ひとりひとりの家であって、わが家として住んで頂いています。錦糸町と川崎のグループホームの入居者さんは、みなさん認知症を有していらっしゃいますので、サービス付き高齢者住宅とは形態がちがいますが、雰囲気はちかいものがあると思います。
萩原: ここのグループホームは要介護度としてはどれくらいの入居者さんが多いのですか?
林: 平均で2.4か2.5くらいですね。認知症の方しか入居ができないので、認知症対応型共同生活介護というグループホームとして運営しています。ですので、介護保険も適応されます。
萩原: なるほど。あ、そうだ。お二人の自己紹介をしてもらっていいでしょうか? 話し始めてすぐに聞こうと思っていたんですが、このグループホームのことが気になって先に聞くのを忘れてました(笑)。
大下・林:(笑)。
大下: 私は銀木犀のグループホーム2棟の運営管理をやらせてもらっています。ここのシニアマネージャーでもあります。もともとは、まったくちがう業界で仕事をしていて、この業界に入っていろんなところを見学させてもらったんですが、自分自身が「ここには入りたくないな…」という施設が多くて。それがこの業界の常識であれば、その常識をいい意味でやぶっていくような施設を作っていきたいなと思ったんです。
萩原: なんかかっこいいですね! どんなところが業界の常識としてダメだと感じたんですか?
大下: 細かい点はいくつもあるのですが、これまでの業界の常識って、主体が入居者の人達ではなかったように感じています。あくまで入居者の人達の家であることを前提にして施設を作り、運営しかないとダメなんじゃないかって。
林 :私も長いあいだ施設で働いていたのですが、この施設の立ち上げから携われることになって、これまでではできなかったことをたくさん実現できはじめています。もちろん苦労もいっぱいありますが、私は入居者さんの笑顔を引き出すことがすごく嬉しいので、準備をしっかりして、徐々に入居者さんが入ってきて、入居者さん同士で笑ったりしているのを見ると、私も入居者さんと共同生活をしている一人なのだと感じることもしばしばです。
自分でしたいと思う環境や雰囲気を作っていきたい
萩原 :この施設がオープンして3ヶ月が経ちますが(※グループホーム銀木犀<錦糸町>は2014年1月にオープン。この鼎談は同年4月に行いました。)、3ヶ月一緒に生活をすることで、林さんもかなり満足しているということですか?
林 :始まったばかりなので、満足はまだまだこれからですよ(笑)。ただ、幸いにも立ち上げ時のスタッフさんに恵まれている満足感はあります。スタッフと入居者さんたちが、一緒に台所での仕事や共用スペースの掃除をしているのを見て、打ち解けてくれてるなあって嬉しくなります。
林 :私は、入居者さんに何かをさせる/やらせるみたいなことではなくて、入居者さん自身が誰かの手伝いをしたくなる、自分でしたいと思う環境や雰囲気を作っていきたいと願っているんです。
萩原 :へえ!一緒に掃除をすることもあるんですね。そう考えると自分の家で掃除をするときも、家族と一緒に掃除したりしますもんね。私は手伝わずにぼうっとしてて叱られることもありますが(笑)。
林・大下:(笑)。
萩原 :実は私も以前デイサービスの事務系の仕事をしていて、デイサービス業界の施設や人達をずっと見ていたんですが、介助者であるヘルパーさんが利用者の方に食事をさせたり入浴させたりと、サービスをする側とされる側がはっきり分かれていたんですね。福祉や介護というと、どうしてもそういうイメージがあって、ここのように入居者さん達が自ら手伝ったりするというのがとても新鮮です。日帰りのデイサービスではなく、平均介護度が3くらいの宿泊できるようなお泊まり型のデイサービスでも、泊まりに来た人達が一緒に手伝って何かをするような光景は見たことはあんまりなかったです。
林 :持っている能力を引き出すことが大切なんですよ。認知症というのは患者として病人のように思われがちですが、私は忘れっぽいという能力や性格と考えています。若い人でも忘れっぽい人っているでしょう?
萩原:それは面白い考え方ですね。私の友人にも忘れっぽい人もいますが、逆にそれが彼のまわりを和やかなムードにしてたりします。
林 :そう考えるといろいろと楽になることもありますよ。認知症にも程度があるので、ひとくくりには言えないこも多いですが。能力を引き出すということは、たとえば、認知症がある程度進んでいた方がいたとして、言葉では覚えていなくても、体で覚えていることってありますよね? 入居者さんが時間をかけて頑張ればできることをすべてこちらでやってしまうこともできますが、同時に入居者さんがその能力を使える機会を無くしていることにもなるんです。そういう機会があったときに、職員が声かけをしながら一緒にやったりするのがいいんですよ。家の中でのちょっとしたことは、女性の場合は主婦として体が覚えていることも多いですし、男性でも家のことをいろいろやってきた方も増えてきています。
萩原 :料理を作る作業って、かなり頭を使うというのは聞いたことがありますね。食材で何を作ろうか、作る順番はどうしようか、どういう組み合わせのレシピにしようかなど、考えることは多そうですね。
林 :そうなんですよ。認知症のひとつの特徴として、同じ料理しか作れなくなる、同じような盛りつけしかしなくなる、買い物しても同じ物ばかり買ってしまうみたいなことがあるんですが、職員や入居者さん同士で一緒に動くことで、ちがう料理を作ったりできるようになることもあるんです。
萩原 :なるほど、そういう普通に生活しているときに感じている楽しみが認知症の改善や進行抑止につながると。
林 :そうなんです。
施設の外との関わりも大事
萩原 :この施設で将来やっていきたいことってありますか?
林 :私たちのグループホームは、さっき大下が言った通り地域密着型での運営方針があります。施設の外との関わり、たとえば町内会に出席するということも入居者さんの希望があればしていきたいですし、近所の方たちとの交流も増やしていければいいですね。あとは、ご家族の了承が得られれば、お金を積み立てして、旅行や温泉に希望者を募って行ってみたいです。いまはまだオープンして3ヶ月目なので、実現できてないことも多いですが、まだまだこれからです!
炎コミュニケーション
萩原 :そういえば、今回この場を設けさせてもらうきっかけになった、うちの薪ストーブのことを聞くのを忘れてました。あの薪ストーブは、うちのベストセラーで、炉内の炎がよく見えるようなに設計されたベルギーのドブレ社が作っている薪ストーブなんですが、導入された経緯などを教えてもらえますか?
大下 :はい。きっかけは単純なんです。暖炉や薪ストーブの火を見ることで心が穏やかになるんじゃないかと。夏場に火を入れてない薪ストーブが共用スペースにあっても、何かしらの懐かしさというか、アットホームな感覚も出てきそうですし。また、スマート・エイジング(※東北大学の加齢医学研究所が提唱している「ひとは年を重ねるにつれてより賢く成長する、加齢は人間の発達である」という考え方)を踏まえて考えると、ゆくゆくは入居者さんが火を起こして薪をくべながら、薪ストーブの火の世話をするという認知症対策のアクションにも使えるんじゃないかと思ったんです。
林 :今年はもう4月になってしまいましたが、次に寒くなってきたらいろんなことをやってみたいですね。薪ストーブの火を見ながらの料理とかも。おでんとかいいと思うんですよ! 部屋の湿度が保たれるだけじゃなくて、ダシの匂いも入居者さんの刺激にもなりますし。
萩原 :おでん! いいですね。暖炉や薪ストーブは、普通の暖房ではできないことができるというのも魅力です。うちの会社でも、炎コミュニケーションと呼んだりしていますが、暖炉・薪ストーブは、体に感じる暖かさ以外に、薪が燃える匂い、薪が燃えているときに鳴る音、もちろん炎が燃えているところを見ているだけでも、なぜか飽きないんです。むかしから人間は炎とともに生きてきたと言われていますが、炎から直接受ける刺激のほかに、みんなで炎を囲むことで集まってきた人の間にコミュニケーションが生まれたりもします。家のリビングにある主役はテレビだけだと思われがちですが、暖炉や薪ストーブを設置してみると、テレビよりも暖炉・薪ストーブのまわりに人が集まるなんてこともあるんですよ。
大下 :たしかに薪ストーブのまわりに集まった人たちの間での一体感はあったりしますね。
五感で楽しめる
林 :きょうここで話し合いを始める前に私たちの隣に座られてた(入居者の)方がいい話しをされてましてね。「ひとりで部屋にいたら木を燃やす暖かい香りがしたから、共用スペースまで出て来たんですよ」って。それで、薪ストーブ前に座られて燃えている薪を見ながら「なんともいいのよね。このふんわりとした空気の暖かさ」っておっしゃっていて。
萩原 :それは嬉しい話しですね。もしこの薪ストーブの上におでんを置いておいたら、ダシの香りもあって、すごく人が集まるかもしれません(笑)。暖房とちがって五感で楽しめるのが暖炉・薪ストーブのいいところですね。
大下 :このまえ火を入れたときは、薪ストーブの上にヤカンをおいて、加湿器のようにも使ってました。
萩原 :電気の加湿器よりも味わいがありますね、ストーブの上のヤカンから出る蒸気は。薪ストーブの天面は保温にも最適ですよ。
林 :もつ煮込みを置いておくのもいいかも!
萩原:いまにでも何か料理を作りたくなってきますね(笑)。
林 :むかし外で焚き火をしていた人も少なくないと思うんですよ。いまの都心では焚き火をすることも難しくなって、焚き火をすることによって生まれるご近所づきあいとかもなくなっていますよね。火を起こして世話をすることで脳が活性化されるし、集まってくる人達と話したりすることでも脳が刺激されるとなると、火をみんなで共有するのはすごく理にかなっていることでした。焚き火で作った焼き芋を分けあって食べるのもすごく美味しかったですし。
萩原 :なんかおなかが空いてきましたね(笑)。そういえば、うちのウェブサイトで、炎の伝道士というキャッチコピーの連載コラムがあるんですが、そこで「ひょっとこ」について書いてある回がありまして。なんでも「ひょっとこ」はもともと、火男(ひおとこ)が語源であるという説があって、むかし火を世話するのは男の役割だったらしいんです。だから、外でバーベキューをしたときも男性は火を起こしたり、火の世話をしたがるんじゃないかって…。
林 :そういうときに男性は火の世話をする人が多いですよね。むかしは女性もお風呂を湧かすために火起こししたり、いろりで料理したりと、毎日の生活に欠かせないものだったと思います。
近づいたときに「熱い」という感覚は誰しもがわかる/安全性について
萩原 :ところで、施設に導入する際に薪ストーブの安全性についての議論はあったりしましたか?
大下 :それは考えましたが、結論としては危なくないということになりました。というのも、薪ストーブに近づいたときに「熱い」という感覚は入居者さんの誰しもがわかる感覚ですし、これ以上近づいたり触ったりすればヤケドするということも判断できるからです。それは入居者さんが子どもの頃から培った経験があるからこそだと思います。
林 :さっき、薪ストーブのある場所へ来られた方も、空気が暖かいから来たと言われていたので、空気の温度って、全身で感じるじゃないですか。歩いて近づいてくると暖かいと空気感でわかるんですよ。
大下:目や耳が不自由な方でもこれ以上近づくのはよくないなって察知できると思うんです。
萩原:暖炉や薪ストーブの導入のお問い合わせをいただくときに、安全性について気にされる方も多いですね。
林 :見学に来られた方からも、素敵ですね、でも危なくはないんですか? と聞かれることもありますが、いままで問題が起こったことはないですよと答えてます。
萩原:暖炉や薪ストーブに近づけないようにする柵のような商品もありますが、野趣が少し減ることは否めないですからね。
大下:そういえば、初めて使ってみたときに薪に火をつける方法がわからなくて。なかなかつかないなあと思っていたんです。
萩原:まずは着火剤から火をつけて、そのあとに着火用の薪、そのあとに炉内で長時間燃えつづけさせる用の薪に火をつけるのが一番早いですね。着火用の薪は「ECO杉田くん」という商品が弊社のショッピングサイトでも販売しているのでぜひ! これ、完全に宣伝になってますが(笑)。
大下:了解です。チェックしてみます(笑)。
萩原:よろしくお願いします(笑)。
萩原:この薪ストーブを活用して、これからどういうことをされてみたいですか?
大下:いろいろやってみたいですね。メトスさんのカタログを見ると、暖炉料理用の商品もありますよね。ピザを焼ける台のようなものとか…。
萩原:ピザは炉内で作るんですが、炉内って全方位から熱がくるので、ピザも美味しく焼けるんですよ。五徳の上にピザを置く台になるピアットというものをセットして焼くと、だいだい3分くらいでこんがり焼けます。うちで暖炉料理イベントをやるときでも、ピザを何枚も用意して、次から次に焼いていきます。
林 :そんなに短時間で! だったら全員が食べられる分のピザも焼けますね。あと、熱燗とかも悪くなさそうですね。お酒の匂いでほろ酔い気分に(笑)。
萩原:炉内や下のトレーは調理用、薪ストーブの上は保温用に使えますからね。お酒を飲んで炎を見てるだけでも、良い時間を過ごせますよ。火の世話をしながらというのがなんともいえない良い感じになります。
夏暖炉/夏場の活用法
萩原:これもよく聞かれることですが、暖炉や薪ストーブの場合、夏場はどうするのって。暖炉や薪ストーブは、ただの暖房とちがってインテリアとしての存在感の強さがあるので「わが家」感がすごく出ます。また、夏場には夏暖炉という使い方もいろいろあります。
林 :それはどんなものなんですか?
萩原:ひとつ例をあげるとすると、たとえば七夕なんかのときに、中にキャンドルを入れて部屋の火を消すとすごくムーディーになるんですよ。いろんな色の火が出るキャンドルもありますし。小さなキャンドルを数本入れるだけで、ドブレのように窓が広くて中の炎がしっかり見えるものだと、雰囲気がすごく出ます。
林 :あ、それはやってみましょう!
萩原:誰かの誕生日のときにやったりするのもいいかもしれませんね。あ、そろそろお芋が焼けてるかもしれないので、確認してみましょうか。冬以外に活用する方法は、うちの社内でも今後いろいろと試していきたいと思っています。きょうは忙しいところ、どうもありがとうございました。
大下・林:こちらこそ、ありがとうございました。
焼き芋を作りながら
ちょうど昼食の準備どきに伺いました
薪ストーブの説明風景
全員で記念撮影
■ グループホーム銀木犀<錦糸町>
住所:東京都墨田区亀沢3-3-11
電話:03-5637-9940
交通:JR総武線・半蔵門線『錦糸町駅』『両国駅』下車徒歩10分
グループホーム銀木犀<錦糸町>ブログ
http://ginmokuseikinshicho.blog.fc2.com/
■ 導入して頂いた薪ストーブ ドブレ640CBJ
ドブレ640CBJ 商品ページ
http://metos.co.jp/products/kamin/stove/dovre/dovre640cb.html