サウナタイムに不可欠な「クールダウン」のひととき

サウナタイムに不可欠な「クールダウン」のひととき

さて、前回は「ロウリュ」というキーワードから、フィンランドサウナ流の温まり方を紹介しました。体の温め方がわかったら、次は「身体の冷まし方」のレッスンです。えっ、せっかくあったまったのに冷ますだなんて!?と、あんぐりされるかもしれませんね。でも実は、フィンランドサウナの快感の真骨頂は、「温→冷→温→冷…」という、極端な体感温度の行き来のなかでこそ体感できるものなのです!

 

サウナ第二の快感はクールダウンの瞬間に訪れる!

 


前回お話したように、ロウリュによる熱気は最高に気持ちよく、しかも空間に潤いを与えるので、思いのほか長時間サウナ室にじっとしていられます。けれどやっぱり、ただ熱い空間で耐え続けるだけでは、いくら日々熱い湯船で鍛錬している日本人の忍耐力を持ってしても、だんだんと体がのぼせてきて、やがて快感も半減してしまいます。そこでセットで習慣にしたいのが、定期的なクールダウンタイム。

クールダウンの方法はなんだっていいのですが、手っ取り早いのは、サウナ室の外にあるシャワーから冷水をがっつりと浴びること。すでに体が芯まで十分に温まっているのを感じたら、思い切って一番冷たい水を浴びてみましょう。だいじょうぶ、ヒトはそんなに簡単にショック死なんてしません(笑)それどころか、サウナ後の冷水は名実ともに第二の快感の呼び水となるはずです!

 

クールダウンに秘められた健康&リラクゼーション効果

クールダウンは、灼熱地獄のなかで冷たいドリンクをぐっと飲み干すときのような心地よさをもたらしてくれます。けれど、サウナ浴の直後に冷水を浴びるのにはもうひとつ合理的なわけがあるんですよ。わたしたちの体内の血管は、温められると一時的に拡張してどんどん体外へ熱を放出しようとするので、いわゆる「湯冷め」を起こしやすくなります。 けれど広がった血管に冷たい水をかけて血管を再収縮させてやると、熱が体内に閉じ込められて、結果的にぽかぽか心地を長時間保ち続けることができるのです。

事実、これは実際に経験してもらわないことには信じてもらえないかもしれませんが…サウナで体を温めてから冷水を浴びたあとは、氷点下が当たり前の冬のフィンランドの屋外にバスタオル一枚で飛び出しても、しばらくちっとも寒さを感じないのですよ!むしろ、肌のすぐ内側に蓄えられた熱が外の冷気と拮抗してピンク色に色変わりし、ほやほや~とした最高の恍惚状態に。そうこれこそが、「ロウリュの快感」「クールダウンの快感」に続くサウナ第三の快感「体内保温の快感」であります。

リセット完了したら、もう一度熱いサウナへ。人によりますが、サウナに入るときは、この「温→冷」のセットをだいたい2~3セットは繰り返します。そして「冷」でフィニッシュすれば、サウナ上がりもしばらく体はぽっかぽか。この「温冷浴」は集中的に繰り返すことで、だんだんと血液の循環が良くなり、新陳代謝や冷え性、低血圧なども改善されていくそうですよ!
実は日本の銭湯によく見かける「水風呂」も、まさに同じ効果をねらった仕掛け風呂。温冷浴健康法のアイデアは、温浴文化のある国ならではの特権です。

 

フィンランド人が真顔で推奨する、驚愕のクールダウン方法ベスト3

 

夏も冬も、湖にダイブ!

サウナのあとのクールダウン人気スポット堂々1位は、やっぱり湖の中でしょう!フィンランドが「森と湖の国」と言われるのは、まさにそこかしこに森と湖があるから。フィンランド人の多くは、自宅とは別にサマーコテージを田舎地方の大自然のなかに所有していて、湖や川、海のそばにはサウナ小屋を併せ持っているのがスタンダード・スタイル。湖畔にサウナ小屋を建てるのは、もちろんサウナで火照った体を冷やしに飛び込むためです!

さあ、ここで想像してみてください。あなたは今、熱気が充満したサウナ小屋から飛び出してきて、鳥のさえずりしか聞こえない森の湖畔の桟橋の先に佇んでいます。バスタオルを手放し、最初はおそるおそる足先から、けれどある地点でえいやっと水に全身を沈めて、そのままぷっかり水面に浮かんで呼吸を整える。すると昼は澄んだ青空が、夜は満点の星空がドームのようにすっ裸の自分を包み囲んでくれていることに気づく。その瞬間、もはや熱い/冷たいの快楽を超越した、森羅万象ということばの世界に小さな自分が生きている愛おしさがこみあげてくるのです。

それから、湖に飛び込むのは何も夏場だけではありません。湖ががちがちに凍った真冬だって、フィンランド人は湖の一角にアヴァント(avanto)と呼ばれる穴を開けてまで、ドボンと飛び込んでしまいます!アヴァントにはさすがに何分も浸かっていることはできませんが、厚く張った氷の下の冷水で瞬間的に冷却(もはや麻痺?)された体は、その後しばらく氷点下の屋外で涼んでいてもなんとも感じないくらいの、ぽかぽか無敵ボディに早変わり!体調がすぐれないときや妊婦さんにはおすすめできないけれど、生理的には誰の体でもできてしまうこと。達成できるかどうかは、度胸があるかないか、ただそれだけなのです。

 

雪のなかで体をコロコロ!

これも冬場ならではですが、近くにアヴァントがない場合は、外に降り積もった真っ白な雪にバタッと身をうずめて、無邪気に辺りをコロコロと転がってみたり、皮膚に雪玉をこすりつけるのも立派な天然クールダウン法。ふわふわの雪がほやほやの生身をやさしく受け止めてくれる感覚は、アヴァントほど鮮烈な刺激でもなく、適度な冷却にはちょうどいい!と好む人も多いようです。

 

屋外で、バスタオル一枚の語らい時間

なにも氷水や雪にまみれるなんてアグレッシブな方法をとらなくても、サウナ部屋を出てしばらく外気に身をさらすだけで、それは立派なクールダウンタイムになります。バスタオルだけを巻いた老若男女が、サウナ小屋や街の公衆サウナからわらわらと屋外に出てきて、頭から湯気を立ち上らせながら冷たいドリンク瓶を片手にのんびりとくつろぐ光景は、フィンランドでは決して珍しくありません(もちろん警察のお咎めもありません!)。

夏は白夜の柔らかい光と涼風のなかで、冬はぴりりと凍てつく氷点下の冷気のなかで、火照った体を冷ましながら誰かとおしゃべりに明け暮れるひとときは、日々のストレスや煩わしさをすべて忘れて、裸の心を見せ合ってやさしくコミュニケーションできる幸福時間。少し肌寒くなってきたころに、じゃあそろそろ…と、ふたたびサウナのなかに戻ってゆけば、いつまでもその幸福サイクルが続いてゆきます。

 

どうですか、サウナ時間のもたらしてくれる快楽って実はとっても多種多様で、しかも単なる身体的な快楽にとどまらないんだ…というイメージが、じわじわ共有してもらえているでしょうか。そう、サウナを楽しむことは、忙しない日常のなかで摩耗した心にまで、潤いや安らぎを取り戻すための行為でもあるのですね。

 

次回は、ちょうどこの冬、はじめてのフィンランド(しかも最北端の村!)ではじめての湖畔サウナを体験した、とある日本人来訪客の貴重な体験レポートをお届けします!さあ、彼は厳寒世界でのアヴァント・スイミングに成功したのか!?