暖炉は、永遠に
家族の中心でありつづけます。
家族でひとつの火を囲む。この豊潤な時間の価値は時を越えても変わりません。住まいに 火を持ち込み、世界中で囲炉裏を発展させてきたわたしたちですが、暖炉を生んだのは 中世のヨーロッパでした。 建物が耐火性のある石造りや煉瓦造りになり高層化していくと、壁の中に火を納め、 煙突を設けて建築と一体化する暖房が考案されました。暖炉のはじまりです。平屋でしか 使えない囲炉裏と違って暖炉は各階に設けることが可能。住宅設計は暖炉の登場によって 大きく変わったのです。 人が集まる暖炉は、家の顔。炉の周囲には、石・煉瓦・木・タイルなどによって飾り枠が つくられ、マントルピースと呼ばれるようになりました。そのデザインは、ルネサンス期、 バロック期などそれぞれの時代らしい多様な装飾が施され、マントルピースの上は彫刻 などを置く棚に。現在でもマントルピースは、家族の写真や置き時計や美術品などを 飾るスペースになっていますが、その伝統はこの頃からのものだったのです。 家の中で最も大切な場所となった暖炉。その両側には長椅子が置かれ、イギリスでは このスペースをイングルヌック、またの名をチムニー・コーナーと呼ぶようになりました。 家族はここに集まって暖まりながら時を過ごし、冷え込む夜はここで眠りについたといいます。 イングルヌックは、まさにぬくぬくの家族空間だったのです。 時代は下って、20世紀の建築家がこのイングルヌックに注目しました。有名なところでは、 帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトが住宅設計に取り入れます。彼がめざしたのは、 マントルピースの華やかさを競うような暖炉ではなく、家の核としての暖炉の復活。家族で 火を囲む生活の原点回帰でした。F・L・ライトをはじめとして、現代建築家が暖炉に 注目するのは、暖炉の価値が時代を超越するものだからにちがいありません。 最新の暖炉も、アート感覚あふれる斬新なものが多く見られます。これは、建築家たちが 再発見した暖炉文化を正統に受け継いだものといえるでしょう。 いま暖炉は、手間がかかるという意味において、とてもぜいたくなものになってしまいました。 薪を調達し、薪を割り、薪をくべる。このたいへんな仕事こそ、家族が集まる中心をつくる 大切ないとなみ。便利なだけの暖房とは次元のちがう価値が、暖炉にはあるのです。 火を眺めながらくつろぐ。家族や友人たちと至福の時を過ごす。家の真ん中に火を置く ことで、人生は大いに豊かになります。あなたの家族の中心にも、ぜひ暖炉を復活させてください。