「フィンランドサウナのルーツを求めて」旅で出会った人々や風景を振り返りながら
Moi!ショウ吉永です。
今回はフィンランドのサウナ旅を、旅の仲間であり案内人でもあった
(フィンランド現地からの連載コラムでもおなじみの)こばやしあやなさんと共に振り返ります。
これまでの記事で紹介できなかった話も飛び出しますよ。
ヘルシンキ − サウナの礼儀、サウナという特別な場 −
(黒字:ショウ吉永 / オレンジ字:こばやしあやな)
ショウ吉永: こんにちは、あやなさん。では早速ですが、今回のサウナ旅を振り返ってみましょう。よろしくお願いします。
こばやし: よろしくお願いします。今回は、ヘルシンキ、タンペレ、ヴァンター、トゥルクと移動しながら4つのサウナに入りました。最初に行ったのはフィンランドの首都・ヘルシンキでしたね。
ショウ吉永: ヘルシンキではサウナ体験の前に街を歩きました。ヘルシンキの街並みは良かったですね。どこを見てもスタイリッシュなデザインの建物や店が並んでいました。木造建築のカンピ礼拝堂や、天然の岩盤をくりぬいて作られたテンペリアウキオ教会など、素晴らしい建築物を見ることができたのはいい経験でした。フィンランドの文化や歴史に触れ、住んでいる人たちの価値観を少し共有できた気がします。
こばやし: ヘルシンキでは、当初訪問予定になかったいくつかのサウナへも行きました。
ショウ吉永: コティハルュン・サウナ(今回、記事では紹介していないお店です)。ヘルシンキ市内最古の公衆サウナでしたね。1920年代の建物に入っていて、ストーブも昔ながらの薪式でした。
こばやし: ロウリュも蛇口をひねって、焼け石に直接水を出すタイプで。
ショウ吉永: そう、それなんですが、先にサウナを出る人たちが、残る人たちにわざわざ「サーンコ・へイッター ・ロウリュア(ロウリュをしてもいいですか)?」と声をかけて水を出していたことに感動しました。
こばやし: 声をかけることが暗黙の礼儀なんでしょうね。ちなみにその退出時の挨拶代わりのロウリュ文化、女性用サウナではあまり聞きません。公衆のサウナって、どちらかというと男性が文化をリードしてきたんです。
ショウ吉永: なるほど。それにしても、サウナに入っている間、不思議といろんな人から話しかけられました。「熱くないか?」「どうだい?」「よかったろう?」って。クールダウンで建物の前で涼んでいる時に、歩道からも声をかけられたりして。あれは自分が外国人だったからでしょうか?
こばやし: サウナ文化のなかでは、見知らぬ人とも声をかけあったり会話をするのが普通なんです。
ショウ吉永: サウナ後も、客同士が1リットルのビールを片手に語り合っていたりして、いい雰囲気でした。
こばやし: ちなみに、店にいた常連らしいグループの人たちに声をかけたら「10年ぶりに来店した」というんです。理由を聞いたら、最近、共通のご友人を亡くされたそうで、故人を偲ぶ流れで、彼が好きだったというここのサウナにみんなで入りに来たということでした。
ショウ吉永: 故人を想いながらサウナに集まる……、それだけサウナが身近であり、素直に語り合える特別な場なんですね。
国際サウナ協会のエロマー会長と語る
こばやし: 語り合うと言えば、旅の途中で国際サウナ協会のエロマー会長と対談する機会にも恵まれましたね。
ショウ吉永: そう!エロマー会長と、サウナに対する想いや、日本とフィンランドのサウナの今後について語り合えたのは嬉しかったです。日本のサウナメーカーのリーディングカンパニーとして、メトスが長年日本国内でやってきたサウナ啓蒙活動や、ここ最近ではロウリュという言葉の普及活動での苦労話などをしたのが印象的ですね。エロマー会長は世界のサウナを体験し、自ら発信しつづけている人だけあって刺激になりました。
こばやし:今では日本のスパやサウナ施設でも少しずつ「ロウリュ」という言葉が認知されてきているようですが、その仕掛け役はメトスさんだったんですね!
ショウ吉永:そうなんですよ。地道に普及活動を頑張ってきた成果が少しずつ現れてきていて嬉しいです!
タンペレ − サウナが支える地域コミュニティ −
こばやし: その後に行ったのはムーミン谷博物館があることでも有名なフィンランド第二の都市・タンペレでしたね。
ショウ吉永: 豊かな水資源を利用して栄えた工業都市だけあって、川や湖の沿岸にレンガ造りの工場が立ち並んでいましたね。タンペレ大聖堂も印象的でした。
こばやし: タンペレ大聖堂は、外観の可愛らしさと、建物内の一見グロテスクな壁画(蛇や骸骨など)のギャップがユニークですよね。でもその独自性が愛されているからこそ、100年以上も存在しているのだと思います。
ショウ吉永: タンペレで入ったラヤポルティ・サウナも100年以上の歴史があるものでしたね。途中、解体の危機を迎えながらも、素晴らしいロウリュを体験できるサウナ店としてファンに守られ、フィンランド現存最古の公衆サウナとして存在し続けているのはすごいことだと思いました。
こばやし: 実際、現存最古の公衆サウナを体験されていかがでしたか?
ショウ吉永: 地域の人が集っている街ぐるみ感がよかったですね。小さな子どもからお爺ちゃんまでが集まっているサウナって、なかなか出会えないです。昔は日本の銭湯も同じ役割を果たしていたはずですが、コミュニケーションについては希薄になっていますね。日本でも公衆浴場の在り方を見直せたらいいのに、と思います。
こばやし: コミュニティ作りは社会的な問題となっていますね。あのサウナは家族や友人で利用するだけでなく、ご近所さん同士の地域コミュニティの場所として利用しているのがポイントでしたね。番台さんも「3分後に戻ってきます」と看板を出したまま、クールダウンをする中庭で皆とおしゃべりをしていたりしました(笑)。
ショウ吉永: 奥のベンチで町内会の打ち合わせをしている人たちもいて、サウナという場が本当にいい役割を果たしていましたよね。
こばやし: ちなみに、あのお店、ロッカーがないんですよね。他人を信じる勇気であり文化があるんです。これは他の国ではありえないですよね。日本でもありえないかと思います。
ショウ吉永: 僕はツーリストだし不安でしたが、サウナ室内やクールダウン中にコミュニケーションして、お客さん同士が信用し合っているのがわかりました。信頼できる人のつながりがあるということが大事なのかもしれませんね。
ヴァンター/トゥルク − サウナの新しい世界に触れること −
こばやし: その後、ヘルシンキ郊外、国内最大の空港を有する都市バンターのクーシヤルヴィ・サウナに行きました。国立公園の中というアウトドア・レジャーには最高の場所でしたね。
ショウ吉永: クーシヤルヴィ・サウナではアウトドア・レジャー文化に貢献しているサウナのあり方を見ました。ボーイスカウトの経験がある僕としては、日本でもこんな場所で子どもたちにサウナを体験して欲しい、と思ってしまいました。キャンプでキャンプファイヤーの楽しみを知るように、サウナの魅力を知ってもらいたいなあ、と。
こばやし: それが湖畔で、湖に飛び込んだりできれば更にいいですね。自然の中に生身の身体で入っていくことは、子どもにも大人にもいい体験だと思います。貴重ですよ。
ショウ吉永: そう思います。この貴重な体験を日本でもアウトドアと絡めて広めていきたいですね。最後は、フィンランド南西部のトゥルクへ行きました。
こばやし: トゥルクは、フィンランドのかつての首都です。ロシアによってヘルシンキへの遷都がなされるまで、実に600年ものあいだフィンランドの中心でした。町の中心部には運河が流れ、緑の美しい夏場になると河辺は夜まで散策を楽しむ人であふれます。
ショウ吉永: トゥルクでは、ヘンリックさんの経営するサウナコテージ、ロマヒュッパウスに泊まりました。あそこは冬になるとアヴァント(湖の氷に穴を開けたところへサウナ後に裸で飛び込むクールダウン方法)も体験できるんですよね?
こばやし: 私は初のフィンランド旅行であのサウナのそばのコテージに泊まり、アヴァントを体験したんです。ヘンリックさんには直前まで「本当に大丈夫なの?」と聞き続けましたよ。でも彼は「大丈夫、万が一のときは10分でドクターヘリがくる」って(笑)。それじゃ間に合わない!と思いましたが、入ってみたら大丈夫でしたね。人間の身体は、すさまじい温度差にもちゃんと適応できると教わりました。もちろん妊婦さんや心臓の弱い方などは控えるべきですが。
ショウ吉永: 凍った湖に飛び込むのは、やっぱり勇気が必要です。日本人は怖がりなんでしょうか?
こばやし: 風習の違いじゃないでしょうか。一度やって大丈夫だとわかれば2回目以降は誰だって平気です。逆に外国人は、日本人のように40度のお湯には怖くて入れなかったりするんです。フィンランド人でも、アヴァントが怖くて人生で一度も経験したことがないという人は、実は少なくありません。
ショウ吉永: 怖れずに挑戦することですね、僕の英語と一緒かも知れない(笑)。
こばやし: フィンランドの(サウナ浴の)方法をそのまま日本で踏襲する必要はありませんが、フィンランドで体験して気持ちいいと感じたなら日本でも可能な方法で試してみて欲しい!と思います。
ショウ吉永: 本当に。まずは体験することですね。今回の旅では様々なサウナ体験ができたことに感謝しています。こばやしさん、お付き合いいただきありがとうございました!
(2014年10月)
ショウ吉永 Profile
福岡県生まれ。株式会社メトス代表取締役。本名・吉永昌一朗。
幼少期にボーイスカウトで自然と人の共存の重要性を学ぶ。航空自衛隊で整備士として働いていた時代、基地内にあるサウナへ同僚達と通ったことが、サウナの魅力を知るきっかけとなった。その後、アパレル業界、照明インテリア業界を経て、メトスへ入社。異色のキャリアならではの発想力と行動力で、日本の温浴文化を活性化させている。全国のサウナにロウリュを定着させるため、旧中山産業(メトスの前身会社)が蓄積していた膨大なノウハウと情報を活用し、「ikiサウナ」や「サウナisness」といったロウリュが可能なサウナヒーター、アウトドアでサウナ浴ができる「テントサウナ」など、これまでにないサウナを日本に広めた。近年は、サウナとエンターテイメントを融合させる「ロウリュ熱波隊」プロジェクトや、サウナヨガなど、サウナの新しい楽しみ方を研究・提唱している。共著に「温泉の百科事典」など。
こばやしあやな Profile
フィンランドのユヴァスキュラ大学大学院に在籍し、芸術教育学を学ぶかたわらで、ライター、ガイド、翻訳・通訳などをおこなうフリーランサー。All Aboutフィンランドガイドを務めるほか、文化情報誌などに取材文やエッセーを多数寄稿する。甲斐甲斐しくて情報通で、愛され上手な「大阪のおばちゃん=おかん」が人生のお手本。在京時代に日々都内の銭湯巡りに勤しんでいたフットワークと経験を生かし、現在はフィンランドサウナ、とりわけ公衆サウナ文化に関心を寄せて、比較研究に取り組んでいる。
公式ウェブサイト: Suomiのおかん こばやしあやな
公式ブログ: Suomiのおかんの湖畔会議
公式Facebookページ: Suomiのおかん こばやしあやな