個粋導入施設スタッフの生の声を聞きました。

VOICE with

ナースケア・リビング世田谷中町 編

2017年5月に誕生した看護小規模多機能型居宅介護事業所「ナースケア・リビング世田谷中町」。英国スターリング大学・認知症サービス開発センターが監修したという真新しい事業所内には、要介護者のための浴槽として「個粋コンチェルト」が導入されています。

今回の記事では、認知症サービス開発センター監修による〈認知症の方にも優しいデザイン〉が採用された施設内部を詳しくご紹介すると共に、事業所長へのインタビューの内容をお届けします。看護小規模多機能型居宅介護という在り方を選択した理由や、在宅支援への思い入れ、近年の介護士不足問題についてなど、多様な内容です。ぜひご覧ください。

ナースケア・リビング世田谷中町とは

世田谷中町プロジェクトのイメージ画像。この敷地内に、分譲マンション、シニア住宅、周辺地域の人も利用可能な共有施設が集まる。

シニア住宅は60歳以上の自立者向きの「シニアレジデンス」と65歳以上の要介護者のための「ケアレジデンス(サービス付き高齢者住宅)」から成る(介護度の進行に合わせてシニアレジデンスからケアレジデンスへの住み替えも可能)。

プロジェクトが掲げる「多世代交流」「地域交流」の拠点となる共有施設「コミュニティプラザ」。ナースケア・リビング世田谷中町(4F)の他、認可保育園(2F)、カルチャールーム(4F)やコミュニティサロン(1F)が入り、周辺地域住民が利用することも可能。

ナースケア・リビング世田谷中町は、世田谷区で訪問診療を行う「桜新町アーバンクリニック」が新たにはじめた看護小規模多機能型居宅介護事業所(通称『看多機(かんたき)』)。「通い」「訪問介護」「訪問看護・リハビリ」「泊まり」「ケアプラン」の5つのサービスを1つのチームで提供できる事業所です。興味深いのは、この事業所が、東急不動産による「世田谷中町プロジェクト(東京都の『一般住宅を併設したサービス付き高齢者向け住宅整備事業』第一号選定プロジェクト」)に参加していることです。

世田谷中町プロジェクトが目指すのは、多世代の交流や、地域とのつながりの生まれる住環境づくり。そして高齢化社会、待機児童問題などの社会課題の解決もその使命として掲げられています。そんなプロジェクトでは認知症対策も重要視されており、順天堂大学と提携した認知症予防プログラムの提供(入居者向け)、英国スターリング大学・認知症サービス開発センター(以下DSDC)と提携した認知症に優しいデザインの導入など、画期的な試みが導入されます。もちろん、今回お邪魔するナースケア・リビング世田谷中町のデザインもDSDC監修によるもの。認知症の人が間違えない・混乱しない・動きやすい、やさしい工夫を施したデザインが導入されています。

もちろん、今回お邪魔するナースケア・リビング世田谷中町のデザインもDSDC監修によるもの。認知症の人が間違えない・混乱しない・動きやすい、やさしい工夫を施したデザインが導入されています。

「医療依存度が高い方でも、不安なく介護医療サービスを受けられて、おうち以外でも心と身体が休まる、リビングルームのような場所を作りたい」とその名前がつけられた

光のたっぷり入る窓もあり、とても開放的な共有スペース。フロア内で使われる鮮やかながら落ち着きのある色は、歌舞伎的な和のイメージを大切にして選んだものだそう。

白基調で明るい雰囲気の個室。

一面だけ壁紙に色が施されているのは自分の部屋を覚えやすくするため。ドアを開けてすぐ目に入るため、部屋間違いにも気づきやすい。

部屋の入口ドアにつけられたフォトフレーム。利用者が自身の思い出の写真などを貼ることで、自室を認識しやすくなる。

廊下には、トイレの場所を示す便器のピクトグラムが。これで文字を認識できない人でもイメージで場所を理解し、たどりつける、

トイレ入口ドアにはピクトグラムの他、ドアの開け方を伝える矢印も描かれている。

自立度の高い利用者向けの浴室。浴室内の手すりは、日本では珍しい赤色。これは白内障のある方でも手すりの位置を認識しやすくし、自立した入浴をサポートするため。

介護度の高い利用者向けの浴室には、個粋コンチェルトが。「電動ストレッチャー(寝浴用)のタイヤ4輪が一度にロックできるなど、ちょっとしたことが便利」とは後でインタビューにも登場する松崎さんの弁。

今回のインタビュー相手となる片山さん(写真右)とスタッフの皆さん(一番左の松崎さんもインタビュー最後に登場)。この優しい笑顔と真摯な姿勢が利用者さんや家族の緊張を解きほぐす。

ちなみにページ冒頭にも登場したワンちゃんは「ルイ」。片山さんの飼い犬であり、高齢の方と交流して相手の心を癒やす〈セラピードッグ〉でもある。時々、ボランティアスタッフとして事業所に訪れてくるそう。

現場インタビュー

「最期まで、自宅で」その選択を支えてゆくために

INTERVIEWEE

ナースケア・リビング世田谷中町 所長 片山さん

看護師。卒業後、大学病院や一般企業に勤務した後、医療社団法人プラタナスに入職。施設在宅医療部でのマネジメントスタッフ、訪問診療・訪問看護スタッフなどを経験した後、ナースケア・リビング世田谷中町の所長となる。

INTERVIEWER

瀬尾卓志(せお・たくし)

1997年より老健施設で介護福祉士として勤務。2002年より川崎医療福祉大学でプロダクトデザインを学ぶ。メトス入社後、個粋の開発にも携わり、個粋には人一倍愛着をもっている。

「看護小規模多機能型居宅介護、はじめます」利用者中心の、家族や人生まで支えるケアを目指して

瀬尾

今日は、ナースケア・リビング世田谷中町の誕生にまつわる話など、いろいろうかがいたく思っています。どうぞよろしくお願いします。

片山

こちらこそ、よろしくお願いします!

瀬尾

まずはじめに、今回、新たに看護小規模多機能型居宅介護事業所(以下「看多機」)をはじめるに至った経緯を教えていただけますか?

片山

はい。私たち医療法人社団プラタナスは、総事務長の大石が自身の出産時に〈患者中心でない医療〉を経験したことをきっかけに生まれています。当時コンサルティング会社で働いていた大石は、まず「病院経営やサービスの質の向上を手がけたい」と株式会社メディヴァというコンサル会社を立ち上げました。その後、より理想的な医療を提供すべく医療法人社団プラタナスを設立、家庭医療を主軸とした「用賀アーバンクリニック」をオープンさせたんです。 アーバンクリニックでは〈患者さん中心の医療〉が実践されました。診療録もすべて患者さんにお見せして、外からでも見れるよう「オープンカルテ」を採用しました。ちなみにオープンカルテは、まだインターネットが普及しはじめたばかりという頃から経産省と組みながら実施するなど、先進的な取り組みでもありました。 さらにプラタナスは、周辺エリアにアーバンクリニックを立ち上げてゆきます。その中のひとつ「桜新町アーバンクリニック」に勤務していた医師が、家族の病気をきっかけに地元・鹿児島に戻り、そこで在宅医療に取り組むことになったんです。その医師……遠矢先生はその後、東京に戻ってきたのですが、在宅医療への思い入れが強く、桜新町の院長に就任したのをきっかけに在宅診療部を発足させたんです。

瀬尾

患者さんに寄り添う形の医療を志す方が、その思いを徐々に形にしていったんですね。。

片山

その通りです。そんな人たちと共に働く中で、私もよりよい在宅支援の実現を目指すようになりました。 話を戻すと、桜新町アーバンクリニックは、在宅診療部発足から徐々に患者さんが増え、医師が増えてと成長していきます。そして2012年には訪問看護ステーションを立ち上げることになります。現在では患者さんが400名くらいに増え、医師も非常勤や外来医師も合わせて11人ほどに増えています。 そうして規模が大きくなる中で、お看取りが増えたり、最期の瞬間まで住み慣れたお家で過ごしたいと希望される患者さんも増えてきていて。それに対して私たちも誠心誠意お手伝いするんですが、中には、最期まで家での暮らしを望む患者さん、その患者さんを支えるご家族が疲れてしまうケースも少なくないんです。

スピーディーに言葉を選びながら、整然と、笑顔で説明してくれる片山さん。まっすぐに利用者さんと向き合うその人柄が会話からも感じられる。

瀬尾

そこ、具体的に聞かせていただけますか?

片山

はい。例えば、認知症の方の行動・心理症状ですね。 それで、ご家族が介護で疲れてしまったとき、例えばうちの有床診療所「松原アーバンクリニック」などで患者さんをショートステイ(泊まり)をさせることは可能なんですが、そこはあくまで病院で、入院治療する場なので、家庭っぽさがないんですね。認知症の患者さんでも安心してくつろげるような場所、とは言えないんです。

瀬尾

そうなると、支える側のご家族もダウンしてしまいますよね。

片山

そうなんです。なのでこの看多機をつくりました。 住み慣れた家に近いところで、ちょっと泊まりができて、ご家族がお休みができて、少しでも介護負担を軽減できるようにと。

瀬尾

小規模多機能型でなく、看護小規模多機能型を選ばれたのはどうしてですか?

瀬尾

それはサービス名にヒントがあるんですが、小規模多機能型には看護師がいないんです。介護はあるんですが、看護、医療がないんです。 逆に、看多機であれば、気管切開していて、胃ろうをつくっていて、酸素吸入をしていて……という医療処置が必要な患者さんの受け入れが可能です。普通の施設のショートステイで受け入れてもらえない、医療依存度の高い方も受け入れていけるように……それで看護小規模多機能型を選択したという感じです。

瀬尾

医療の有無による違い、とても大きいですね。

片山

はい。世田谷にも小規模多機能型はいくつかあるんですが、症状が進行すると、利用者さんは看護師のいる特別養護老人ホームへの入所や病院への入院を余儀なくされてしまうんですね。 最期までおうちで暮らしたい利用者さんやそのご家族を支えるなら、小規模多機能型よりも看護小規模多機能型の方が、利用者さんたちのニーズにも、それを支えたいという医師たちの思いにも合うんですよね。

片山

看多機は、介護保険サービスなので、高齢者で介護保険があって、要介護1以上の方しか基本的には対象じゃないんですけれど、例えば障害を持ったような方、40代くらいでバイク事故で足を切断した……なんていう方も、障害の保険の中でこちらを使えるんですね。神経難病の方も使えるし、重症心身障害児の方も使えます。それが看護小規模多機能型のすごく面白いところです。 ちなみに看多機は2012年の診療報酬改定で創設され、2015年に名称が新たに決まったサービスです。世田谷にはこれまで0件でしたが、今年、うちと、他にもう一軒がスタートすることになっています。

認知症の人に限らず、みんなにやさしい施設デザインを。

瀬尾

次に、こちらの施設のデザインについても伺っていいですか? 先ほど、施設デザインについてご説明いただいたんですが(先の「ナースケア・リビング世田谷中町とは」参照)、認知症の方にも優しいデザインであることの他に、意識されたことなどはありますか?

片山

そうですね。 まずひとつ、この施設は〈認知症の方にも優しいデザイン〉ということで各メディアにも紹介されているんですが、その優しさというのは「なんでも親切に、こちらでやってあげる」というものではないんですね。あくまで目指しているのは〈その人自身が自立して、したい行為が行えるようにする〉ことです。利用者さんの持つチカラを損なわず、施設デザインでさりげなくサポートしたい、ということは意識しました。 そして、ここに来る人すべてにやさしい、心地よいデザインであるということも意識しました。 私たちが地域というものの理想を考えたとき、健常な人も、ハンディキャップを持った方も、全部が一緒という地域が理想だと思ったんです。身体に限らず、精神・知的障害を持っていたり、いろいろあったとしても、区別はしたくないっていうのがあって。 今回、浴槽に個粋コンチェルトを選んだのも、そこに理由があります。

瀬尾

詳しく伺えますか?

片山

はい。 この場所には、自立度の高い方の使う浴室と、介護を要する方の浴室があって、個粋コンチェルトを採用したのは後者です。 介護度の高い方の浴槽というと、座ったまま椅子ごと装置に入るとそこにザーッとお湯が流れ込んでくるようなものがあったりするんですよね。浴槽壁の一部が扉になっていてその扉を開いて座るとお湯が……というものもありました。 それが、私は苦手だったんですね。いかにも特殊な浴槽……障害のある方のための浴槽という感じとか、本当に「機械!」っていう見た目とかが、すごく嫌で。

片山

でも個粋コンチェルトは、見た感じも普通にただの浴槽で。リフトも隠れているし、でも必要な時にはリフター(昇降装置)を出して座って入れたり。ストレッチャーで横になって入ることもできて。足を伸ばしてゆっくり浸かれるゆとりもあって。自宅の浴槽みたいな感じでも入れる。 かつ、リフトや上下する(昇降)ストレッチャーがあるから、介護者の腰の負担もないし、安全に入浴介助できますよね。そこがすごく魅力だと思いまして、選ばせてもらいました。

瀬尾

ありがとうございます。 うちのお風呂を選んでくれる方は、本当に利用者さん目線というか、普通の生活を当たり前とする視点を忘れないというか……ありがたいし、うれしくなりますね。 ちなみに、浴槽の形を「普通の、家庭のお風呂」と気に入っていただけることは多いんですが、お湯を入れるタイミングについて触れていただくことは少ないので、ちょっと驚きました。

瀬尾

そうなんです、うちの浴槽には、後からお湯が入ってくるものってないんですよ。絶対、先にお湯が入っているっていうのが、メトスが目指しているところで。 これも「普通のお風呂」を大切にした結果なんですけど……障害があるから、歳をとっているからって、特別なお風呂に入るのではなくて。やっぱり入浴は、元気なときと同じ状態で、足から入ってもらって、中で座るっていうのが基本だと考えているんです。

片山

そうですよね。「これまで通りのお風呂」は、大切だと思います。

瀬尾

ちなみに今回、個粋コンチェルトという寝浴としても使える浴槽を作ったのは、国内で進んでいる重度化への対応が理由です。 看多機などの事業所には、平均介護度3.5以上じゃないと採算が合わない……そんなところも少なくありません。 そういった事業所では、在宅での看取りを支える覚悟と対応力が求められます。となると、浴槽も最重度の方まで対応できるものでなくてはいけないんですね。 でも、多くの施設には、自立して動ける方から介護度の高い方まで様々な利用者さんがいらっしゃいます。でも、複数の浴槽を手配することはスペース面・費用面的に難しい。結果、一台でいろんな身体の状況の方に対応できる浴槽が求められるわけなんです。 そういったニーズに応えるために、私たちは今回、自立した方の入浴にも介護度の高い方の入浴にも使える「個粋コンチェルト」という浴槽を作り上げました。 それでも極力、入浴者さんには『足から入って、座って浸かる』という普段のお風呂を楽しみ続けて欲しい。それが、私たちメトスの願いです。

地域で、想いを持って、働くということ

瀬尾

少し話が逸れるかもしれませんが、先ほど「訪問診療への参加を機に、よりよい在宅支援の実現を目指すようになった」という話がありましたよね。できれば片山さんのこれまでの経歴や、在宅への想いを強くされるまでの流れなどを詳しく聞かせていただいてもいいですか?

片山

わかりました。 私は元々、大学病院の外科病棟で主に手術後の患者さんを看ていました。その後ICU、CCU(冠疾患集中治療室、循環器系の重篤患者が対象)という高度先端医療の現場にいたんです。完全な急性期ですね。 人工心肺など、あらゆる先端医療を管理する場所だったんですが、そこで働くうちに、医師の指示ですべて動いていくということに違和感を感じはじめたんですね。自分の知識が増えてくると、自分である程度、予見もできるし治療もできる、でも病院だと、やはり〈看護師は医師の指示ありきで動くもの〉ということになってしまう。 それで、看護師ひとりでできることを求めて、看護師という職種のまま一般企業に入ったんです。

瀬尾

そうなんですね。看護師の活躍する場というと、メインは病院、そこに高齢者施設や訪問看護事業所などが続くという感じが多いように思えます。

片山

そうですね。確かに病院や施設で働く看護師が多いですが、一般企業の医務室や健康管理室の求人もあるんですよね。 企業では健康管理室で働いていたのですが、そこで強く印象に残っているのは、医師の指示なく働けたことではなく、一般常識の存在というか……(笑)。

瀬尾

えっ?

片山

(笑)あの、これは病院勤務した方だとわかると思うですが、病院で働く上で知らなくても問題がない常識ってあるんですよ。お客様からの電話への対応の仕方とか、手紙の書き方だったりとか。いわゆる礼節の部分ですね。病院内での他部門との連絡、申し送りの会話やカルテには「私◯◯と申します」なんてセリフも無ければ「拝啓」なんて言葉も出てこないんです。 思いの外、自分に常識がなかったことにカルチャーショックを受けましたし、いろんなことを体験し、学びました。満員電車での通勤とか(笑)。

瀬尾

(笑)なるほど、「病院の外」を知ったんですね。

片山

はい(笑)。病院と、その外側の違いを痛感しましたね。ちなみにその会社で6年くらい勤めた後、縁があって医療法人社団プラタナスに入職したんです。 最初は、松原アーバンクリニックの施設在宅医療部という有料老人ホームの訪問診療を手がける部署にいました。そこは1,000人近くの患者さんを受け持つ多忙な部署だったので、診療のためのマネージメント補佐などをしていました。 その後、桜新町アーバンクリニックに呼ばれて、そこではじめて訪問診療や訪問看護を経験したんですね。

瀬尾

それが大きな転機だったということでしょうか。

片山

そうですね。そこではじめて、病院にいる患者さんではなく、自宅、地域で暮らす患者さんを見ることができたんです。 人が、病院とまったく違う環境の中で、どう療養していくかっていうことが、非常によくわかりました。そこには支援が必要だってことも、支援を提供するには本人というか家族、家全体……人生そのものを担わないと全部ケアできないっていうこともよくわかったんです。 そして、それこそが看護師のやるべき仕事だと思ったんですね。

瀬尾

やるべき仕事。

片山

私のやりたい仕事、とも言えるかもしれません。 私はそういう……患者さんと一緒に人生を切り開いていきたいし、その人が最期の瞬間をできるだけ楽しく、その人らしく過ごせるように援助していけたらな、っていうところにモチベーションを感じたんです。

瀬尾

なるほど。病院や一般企業で働いていたときには思えなかった「私の仕事は、これだ!」って感覚を、得られたんですね。

片山

そうですね。もちろん、同じ看護師でも、私が大学病院で取り組んでいたような先端医療の世界や、それこそドラマに出てくるようなかっこいい医療を目指しているナースもいると思うんです。それで在宅看護の世界に入ってもすぐ辞めていく方もいれば、在宅の世界にどっぷりハマって10年以上っていう方もたくさんいて。 でもやっぱり私はこちらが合っているし、やりがい、モチベーションを感じます。

自身も転職歴のある瀬尾。自身の疑問や関心、思いに従ってチャレンジする片山さんの話には感じるところがある様子。

どうする? 介護士の人材不足

瀬尾

ちなみに、こういった業界ではどこでも介護士が不足しているという話をよく聞くんですが、やっぱりこれは業界全体的なものなんでしょうか?

片山

そうですね、全体的なことですね。看護小規模多機能型であろうが、小規模多機能型であろうが、グループホームであろうが、いま介護職っていうのは本当に足りないです。 一度入職しても、業界を去ってしまったり、業界を出ないにしても職場を転々としたり……平均の継続雇用年数って1〜2年とかじゃないでしょうか。すごく夜勤が多いとか、常に時間に追われるとか、そういった業務内容に辟易している方も多いですよね。 そんな中で、意欲ある人材に出会うこともなかなか難しいですね。うちも面接を何度も何度もして、やっと今のメンバー……精鋭部隊がそろった状況です(笑)

瀬尾

それは良かったです(笑)。でも本当に、この業界の人手不足ってどうしたら解決するのかなと思います。

片山

そうですね……。 ちょっと、人材の不足についてというより「私たちは介護職の人々を必要としているんだ」という話をしてもいいですか? あの、私たちは介護職というのはとても大切だと思っています。なんというか……在宅って医療だけでは完結しないんです、診療と看護だけでは。やっぱり介護があってこそ自宅の生活がなりたつわけで。むしろ基本は介護だと思うんです。

瀬尾

そうですね。病に対応するのは医療ですが、日常生活の困難な部分に対応……サポートするのは介護ですよね。だから介護の方が、より広く求められているわけで。

片山

そうなんです。だから、その介護を私たちが提供できること……介護職が私たちのチームの中にいるってことは非常に強みになると思っています。それもあって今回、介護保険サービスとなる看多機を作ったという側面もあります。 でも、それだけ必要とされている介護士が増えないこと、時代として介護職が冷遇されがちなことはなんでだろう……という疑問はどうしてもありますよね。そこはプラタナスでも自分たちなりに解決したいと考えています。

片山

例えば、介護職がちゃんとキャリアアップできるとか、賃金がきちんと賄われることや休みもキチンととれることで生活にゆとりが生まれるとか、そういうことで利用者さんにもゆとりあるケアが提供されるような流れを作りたいと思うんですね。 なので、当面はクリニックやステーションのバックアップがあってこそになるとは思うのですが、この看多機の経営はしっかり安定させたいです。その上で、スタッフのキャリアアップとか、やりたいケアを追求できる場にしていきたいですね。 そうすればきっとモチベーションも維持できるでしょうし、退職する人も少なくなるでしょうし。みんなが介護という仕事に誇りをもって、続けられるんじゃないかな……と思うんですね。

瀬尾

ちょっとここで、こちらの介護士の松崎さんにもお話をうかがっていいですか? 松崎さん、いま側で話を聞きながら、どう思われましたか?どうしたら離職を防げるか……松崎さんが考える大切な要素というのは何でしょうか。

松崎

そうですね……。給与面とか待遇面とか、確かに生活していく上では大事なことだと思います。 ただ、いまの私が特に大事に思うのは学びの部分ですね。 ここは医師もたくさんいて、医療面の知識を学べる研修などもあります。これまでの現場では、忙しさもあってそういう研修は無かったんですね。でも、知識を得て、技術を身に着けていくと、対応できる場面が広がりますね。変化のない、繰り返しばかりの仕事ではなくなる。そうすると自分のあり方で悩まなくなるし、離職につながる道にはならないのかなと思います。

瀬尾

ああ、成長がモチベーションにつながるわけですね。

松崎

はい。そして自分が先輩方からいただいたものは、後輩に伝えていけます。そうすれば、その後輩も育つと思うので。

瀬尾

なるほど、確かに自分自身だけでなく、自分が関わる誰かの成長を感じられるということもモチベーションを高めることにつながりますね。そして、医療と介護の組み合わせ……多職種連携によって生まれる視点もあるんだなと改めて感じました。 長くなりましたが、今日のインタビューはここで終わりにさせていただこうと思います。今日は様々なお話をうかがえて大変勉強になりました。本当にありがとうございました!

瀬尾「ルイ、遊ぼう!」ルイ「……(どうしようかな)」

新しい視点を得ること、新しい価値をつくること

今回の取材そしてインタビューは、いくつものテーマが浮かび上がってくるもので、とても面白かったです。認知症の方に優しい施設デザインの在り方の話、看護小規模多機能型居宅介護についての話、自分の仕事(であり生き方)を見つけるまでの話、介護人材不足についての話……いずれも「つくる(空間を、機能を、人生を、仕事を……等)」がキーワードだったようにも思います。

印象的だったのは、認知症の方のための浴室環境づくりの話です。「日本によくあるシンプルな(単色で統一されたユニットバスなどの)浴室デザインは境界線がわかりにくく転倒につながりやすい」という話には、考えさせられる部分もありました。確かにユニットバスは、衛生面、施工期間や施工費用、水漏れ対策などから生まれたもので、高齢者の視認性などを考えたものではありません。とはいえ日本人が求める〈落ち着いた空間〉づくりが意識されている側面もあり……それらと高齢者にとっての視認性の高さ・動きやすさをいかに共存させていくか、そこに浴室づくりのセンスが問われていくのではないかと思いました。もしかしたら、浴槽をひのき材にすることなどは「境界線」づくりに一役買うかもしれません。

新しい視点を得ることは、新しいモノや価値を作ることにつながります。片山さんたちが転職や転機をきっかけに地域(医療、ケア)の魅力に気づき、今回の看護小規模多機能型居宅介護をスタートされたように、私たちも新たな価値やプロダクトを創造していけたらと思います。

施設情報

名称/ナースケア・リビング世田谷中町
住所/〒158-0091東京都世田谷区中町五丁目9-9コミュニティプラザ4F
電話/03-6411-6422
交通/東急田園都市線「用賀駅」より徒歩15分、「桜新町駅」より徒歩16分、東急田園都市線「上野毛駅」より徒歩18分
ホームページ/ http://ncliving.sakura-urban.jp