山の神 家のカミ

山の神 家のカミ

 「熊を殺すと雨が降る」とは、マタギの言い伝えである。
山の神が聖なる山を血で汚したことを怒り、雨や雪を降らして山を洗い清めるということのようである。「山の神の血洗い」ともいわれる。(「熊を殺すと雨が降る」遠藤ケイ著)
自然の中で暮らす人々は、数々の体験から、一般ではわからない本当の怖さ、ありがたさを知っている。そのため、言い伝えも多く残っている。

 全国各地で熊が出没している。山、里山、人里との区切りが曖昧になってきていることと、ナラ枯れや酷暑によるドングリの不作が原因らしい。熊の好物は、ブナ、ミズナラ、コナラの実、これら3種類が今年は不作であるからたまらない。冬眠を前にして熊もお腹を大きくしておかなければならない。食料を探し求め、山から里山、気がついたら人里に下りてきて、突然、悪者扱いされ、撃たれてしまう。これでは熊も災難であり、納得がいかないだろう。

 熊は、モスクワオリンピックのミーシャやディズニーシーで人気のダッフィーとシェリーメイなどマスコットやベルリン、ベルンなど地名にも用いられ愛されている反面、いざ姿を現すと狩りの対象とされ、人間と敵対する動物となってしまう。よい関係を保つには、お互いが滅多に顔を合わさない距離間が必要なのだろう。

 山の神は、女性である。自分より美しいものには、嫉妬し怒りを露わにするそうだ。マタギの信仰する山の神は醜女であるという伝承もある。嫉妬心をおこさせないためにより醜いオコゼをお供えする。山の掟を知らない現代人に山の神は、お怒りかもしれない。今年は雨と大雪が心配である。ブナ、ミズナラ、コナラなどドングリのできる木は、薪としては最高の広葉樹である。こちらの方も心配だ。里山が荒れているといわれて久しい。せめて自然、山からの贈り物である薪をありがたく思い、炎を楽しみたい。また「家のカミさん」とも上手に距離感をとり、良い関係を持ちたいものである。

著者紹介
著者:岩崎秀明
株式会社メトスが誇る、炎の伝道士。
豊富な知識とこだわりを持って、暖炉および薪ストーブの普及に励んでいる。