キャンドルで幸せに
「結婚式もない野蛮な国」と欧米から見られていたことから、先進諸国に追いつかねばということではじまったのが日本の結婚式のようである。かつては花嫁道具を新郎の家に運び入れる道具入れ、花嫁が花婿の家に向かう嫁入り、そして祝言(しゅうげん)。これら三つの行事をあわせて婚礼の儀とされていた。農閑期の夕方から夜にかけて親戚縁者を集めて行われる祝言にあわせ、嫁入りの花嫁道中は出発する。これらの行事は薄暗くなる黄昏時からはじまることから、女へんに昏(たそがれ)と書き婚礼となったようである。花嫁道中では提灯で足元を照らし、花婿は家の前でかがり火を焚き花嫁御一行を出迎える。その後、火種は新婦に託され、かまどに移すという風習もあったようである。火は幸せな家庭をつくるための重要なアイテムだった。
大正12年に起こった関東大震災により、東京をはじめ被害は関東全域におよび、多くの家屋は崩壊し、結婚式をおこなうことなど困難な状況になってしまった。そこで神主さんに出張していただき仮設の神前挙式場をつくり、結婚式をおこなったのが帝国ホテルであり、日本でのホテルウェディングのはじまりである。いまでは一般的になっているホテルウェディング、そこで行われるキャンドルサービスは日本で生まれたものである。火種を託す風習からかどうかはわからないが、照明の消えた会場をキャンドルの明かりによって雰囲気を盛り上げ、二人の門出を祝い、幸せを願う気持ちになる重要な演出である。
キャンドルといえば、チーズで知られるオランダのゴーダ地方が有名である。年に一度12月の夜に「キャンドルナイト」が開かれる。市庁舎周辺の電灯はすべて消され、運河沿いに3500本ものキャンドルに火が灯される。キャンドルの炎だけが映え、やさしい炎が街全体に重なり合った光景は、明かりのありがたさと美しさを感じないではいられない。一見の価値ある行事である。
昼夜を問わず明るくなり、暗がりという言葉さえ聞かれなくなってしまっている昨今、春、夏の夕暮れ時は、暖炉や薪ストーブの中でキャンドルを灯してみてはいかかでしょうか。ちょっと贅沢に蜜蝋でつくられたキャンドルもおすすめです。ミツバチが集めてくれた様々な花の香りがほのかにただよい、充実したひとときを味わえます。そしてまた家族の幸せのためにミツバチのように働きましょう。
著者紹介 著者:岩崎秀明 株式会社メトスが誇る、炎の伝道士。 豊富な知識とこだわりを持って、暖炉および薪ストーブの普及に励んでいる。 |