個粋導入施設スタッフの生の声を聞きました。

VOICE with

社会福祉法人 ナザレ園 編 vol2

新しい養護老人ホームを完成させた、歴史のある施設『社会福祉法人 ナザレ園』。大浴場横の個浴浴室には檜浴槽タイプの個粋が、ユニットごとの配置された浴室にはリフトなし個粋が導入されています。

今回は、前編に引き続き、ナザレ園副理事長へのインタビューの様子をお届けします。最近の支援事例や、高齢者および養護老人ホームを取り巻く状況について、そしてこれからのナザレ園が目指すものや今後の取り組みなど、福祉関係の方だけでなく一般の人にも知ってほしい興味深い話が続きます。ぜひご覧ください。

現場インタビュー

「すべての理想を、当たり前に。ナザレ園の思いと挑戦」(後編)

INTERVIEWEE

副理事長 菊池さん

某メーカーの海外駐在員を10数年経験の後、福祉業界に転職。現在、社会福祉法人ナザレ園の副理事長を務める。社会福祉士、精神保健福祉士、福祉施設士などの資格を持つ。日本社会事業大学専門職大学院修了。福祉マネジメント修士。

INTERVIEWER

瀬尾卓志(せお・たくし)

1997年より老健施設で介護福祉士として勤務。2002年より川崎医療福祉大学でプロダクトデザインを学ぶ。メトス入社後、個粋の開発にも携わり、個粋には人一倍愛着をもっている。

菊池

ところで、その男性は、自宅のお風呂が壊れてから、送迎バスつきの市営浴場に行っていたそうなんです。でも、東日本大震災でその市営浴場は壊れてしまい閉鎖されてしまいました。それから現在に至るまで、彼は一度も入浴をしていません。

瀬尾

……えっ。あの震災から、もう何年も過ぎています。

菊池

そうです。

瀬尾

……家に、ずっとおられるんですよね。

菊池

家で、お一人で暮らしています。 それがわかったとき、私たちは次の行動に移りました。まずは、情報の整理です。たとえば、彼は『生活保護受給者であり』『配食サービスを受けている』。 ちなみに生保受給者には必ず担当ケースワーカーがいて、担当には各自治体の定める『自立支援プログラム』を元に、受給者の自立を様々な側面からサポートする役割が課せられています。でもそのサポートは、経済的自立のための就労支援が中心になりがちです。次に多いのが日常生活自立のための支援でしょうか。男性が配食サービスを受けているのは、この視点での支援だと思います。最後に『社会生活自立』。これは「人とのつながりがあり、社会の中に居場所があり、それを自身で実感できること」という感じなのですが、ここまでサポートされていることは少ないんです。

瀬尾

まだまだ高齢者の社会的孤立まで対応しきれていない、ということでしょうか。

菊池

はい。高齢者は、算出された現金を渡されて終了、となりがちです。おそらく社会的孤立をしている高齢者は全国にたくさんいるんだと思います。そこは担当ケースワーカーさんに頑張っていただきたいところなんです。でも、生保担当者には一人で百人ほど抱えているという人も多いので、どうしても限界はあるのでしょう。 話を戻すと、男性は『一人暮らし。仕事はない。貧困状態。高齢になってきた。足が悪い。お風呂はない。友達はいない。ナザレ園職員には何人か知り合いもできてきている』そんな状況です。

瀬尾

環境ストレングス(本人が持つ環境面での強み)として『ナザレ園職員に知り合いがいる』が加わったのは大きいですね(笑)

菊池

(笑)ありがとうございます。 そうやって情報整理する中で、私たちは「この方はもしかしたら介護度があるかもしれない」と気づきました。それで、介護認定の申請のお手伝いをさせていただきました。私たちらしい、おせっかいです(笑)。結果、ケアマネ―ジャーがついて、訪問介護が入るようになりました。

瀬尾

素晴らしい前進ですね!社会的孤立という停滞した状況に、新しい流れが。

菊池

はい。相当な状態だった家の中も、訪問介護員が片付けてくれました。身の回りの必要なことは訪問介護のサービスでまかなえるようになりました。食事もしっかり摂れて、健康状態も段々良くなってきています。介護度のある状態ですが。でも、相変わらず入浴はしていません。清拭などをご自身でされているのか、ホームレスの人たちのような臭いはしないんですけどね。

瀬尾

うーん。私が温浴メーカーの人間だからかもしれませんが、入浴はして欲しいというか、入浴を楽しんで欲しい。どうしても、そう考えてしまいますね。

菊池

わかる気がします、私もお風呂に入って欲しいです。そこで、次なるおせっかいを考えています。 それは、この方にナザレ園のお風呂に入りにきてもらうことです。ぜひ、新しい養護老人ホームの『檜風呂』に入って欲しいんです。他の施設の大浴場でお風呂となると、みんなに裸を見られたくないとか、自分の臭いはどうだろうとか、恥ずかしい思いをさせてしまいかねません。でも、ここの檜風呂だったら個浴でプライバシーも保たれるし、ゆっくり好きなだけ入っていただける。「おー、檜風呂か」「何年ぶりだろう」ってできる。のんびり堪能して欲しいんです。いつか、入りにきて欲しい。もちろん介護度のある方なので、来る頃には介護度が重くなっているかもしれない。でも、そうなったとしてもナザレ園の檜浴槽は(個粋の)リフト付きです。もう、清潔を保つとかより、人間のよろこびとして、お風呂に入って欲しいんです!(熱弁)

新しい養護老人ホームに設置された檜浴槽タイプの個粋。どんな人が来ても楽しめるようリフトも手配済み。

「お風呂を気持ちよく楽しんで欲しい!」と熱く語る菊池さん。こういったスタッフの熱意がナザレ園を動かしている。

瀬尾

熱い!熱い思いがありますね。お風呂のチカラを知っているからこその、その思い、わかる気がします。

菊池

本当に。それがダメならシャワーだけでも……シャワーを口で受け止めて「ガラガラガラ、ウェッ!」ってやってもらいたいですね(笑)

瀬尾

具体的なビジョンまで(笑)!ぜひ実現して欲しいですね。ただ……本人の思いが知りたいですね。本人は「入りたい」って思われているんでしょうか?

菊池

それはとても大事な視点ですよね。実はその男性、急病をきっかけに、これまで2回ナザレ園にたどり着いているんです。そのとき「お風呂入っていったら?」と声をかけたのですが、彼からは「いいよ、いいよ」と断られています。 「ならば不要なのかな」とも考えたのですが、その後の彼とのやりとりの中で「いいよ」と言った理由は恥ずかしさだったんじゃないかと思えてきたんです。「施設のお風呂だからおそらく他人も一緒だろう、でも裸を見られなくない、下着も汚いし……」とか考えたんじゃないでしょうか。確かに、昨日もお風呂に入っている人がスーパー銭湯で脱ぐのとはワケが違いますし。あと、男性が言っていたのは「こうやって何回か連れてきて、施設に入れるつもりじゃないのか?」ということでした。当然、私たちにそんなつもりはありません。でも「いつでも好きなときに来て、ごはんを食べて、お風呂に入ればいいじゃない」とは思っています。 私たちは来て欲しいんです。この施設のカフェ、地域交流スペースなどに。生活困窮の方は無償でもいい。こちらの持ち出しでもいいから利用して欲しい。それで職員と顔なじみになって話しているうちにポロッ困っていることを話してくれたらと思っています。さらに「こんな風に生きていきたい」「こんな最期を迎えたい」そんな希望や目標が聞けたら、何かお手伝いができるかもしれないとも思っています。そうでなくても、ポツンと孤立して生きるのではない状態に……社会的なつながりが生まれたら、と。いろんな職員や利用者さんと友達になってもいいし、お客さん同士で顔なじみになってもいいわけですけど。

菊池

おせっかい、なんですね。もし本人が家でじっとしていたいなら、本心からそうなのであればそれでいいんですけど。『パターナリズム』って言葉がありますよね。お父さんが「こうしなきゃダメだろう」って押し付けるような……そういう支援の仕方はダメと言われている。だから、おせっかいと名乗りますが(笑)

瀬尾

(笑)支援者として思いを行動につなげられている皆さんですが、支援を必要としている方の思いを軽んじてるようにはまったく見えません。じっくり時間をかけて関係性を築きながら、思いを引き出そうとするそのスタンスは素晴らしいと思います。支援者もマンパワー不足の今、かんたんそうでなかなかできないことですよね、おせっかいなんて。

菊池

そうかもしれません。でも、放置すれば、健康を害しましたとか、何もサービスにつながっていない状態で孤独死とか、そういうことにおなりかねないわけです。鬱になって、病院ともつながれず、自死につながる可能性もある。その方法が放火で、周囲を巻き込んで……そんなことにもなりかねない。それらのリスクを考えると、私たちのおせっかいも社会貢献としてアリなのかな、と思っています。

瀬尾

一人の人生のためにも、みんなの人生のためにも、大切なことだと思います。困窮などの問題は、その人だけが原因で起こったわけではないですよね。壮大な話になってしまいますが、すべてはつながっているわけで。社会の誰かが手を差し伸べることで変わるものは大きいと思います。手を差し伸べることが、難しいわけですが。ナザレ園の、地域の困っている人を見逃さず手を差し伸べようとするその姿勢は、本当に素晴らしいものだと思います。

養護老人ホーム大食堂で行われる地域イベントも大切な交流の場となっている(写真はナザレ園facebookより)

瀬尾

ここまで、自分たちからアプローチする話をうかがいましたが、外部から困っている人が連れてこられることもあるんですよね?

菊池

もちろんです。ときには、警察が神社の境内で倒れているホームレスの人を保護して「救急車で入院するほどでもない」「でも行き先ないよな」っていうので「この人お願い!」とか連れてくることもあります(笑)。

瀬尾

ナザレ園なら、なんとかしてくれるんじゃないかと(笑)

菊池

そうなんです。そんなときも、まずはお風呂なんですね。でも、服を開けるとシラミだらけとか、皮膚疾患だらけとか、皮膚が松の樹の幹の表面ような状態だったりとかいろんなことがあります。何年もホームレスをしている人たちですから。例えば、長靴を何年も履いた状態で外で生きている人で、汗と雨水とで靴の中がぐちゃぐちゃなんていう場合、足の皮膚がふやけているどころじゃなくて、とろけてぐじゃぐじゃになっていたりもします。

瀬尾

それは……。どう対処するんですか?

菊池

状態によります。感染症を発症して高熱を出している場合には、病院に運びます。

瀬尾

医療支援など、必要なケアへとつなげていくんですね。

菊池

はい。ちなみに、警察が連れてくるというのは、ひとつのきっかけですね。基本的に、私たちの運営する養護老人ホームや救護施設で暮らすのは、市町村による『措置』で入居した方々です。措置というのは、市町村が「この人、困っているからお願いね」と生活困窮している人、要援助者を施設に連れてくることですね。私たちは市町村から措置費をいただき、そのお金を元にサポートを必要とする方のサポートを行います。ちなみに、特別養護老人ホームも措置が行われる施設です。定員数オーバーなどで受け入れのできない状況の施設も多いですが。

瀬尾

すいません、ここで改めて、特別養護老人ホームと養護老人ホームの違いをご説明いただけますか?あと、救護施設についても。

菊池

特別養護老人ホームは、65歳以上で、要介護3以上の高齢者の方が入れる施設です。介護保険法では介護老人福祉施設とも呼ばれますが、実態は同じです。 対して、養護老人ホームは、65歳以上で、環境的、および経済的な理由などで自宅での生活が困難な方を養護するための施設です。いわば65歳以上の方のためのセーフティネットですね。虐待避難、各種障害や認知症、介護度のある方も入所されています。 そして救護施設は、18歳以上の生活保護受給で、自宅での生活が困難な方を受け入れる施設です。視覚障害や聴覚障害、肢体不自由、精神障害等の障害のある方、ホームレス、DV避難、難病の方、矯正施設出所者など多様な方が入居しています。

瀬尾

ありがとうございます。でも、養護老人ホームや救護施設って、普段あまり聞くことがないですね。

菊池

そうなんです。いま福祉の話になると、どうしても介護保険や障害福祉サービスの話になってしまいがちですしね。そもそも施設数も少ないんです。おおよそですが、日本全国の養護老人ホームは1,000施設弱、救護施設は180施設強。対して、特別養護老人ホームは7,500施設超えです。そういった大きな数の影に隠れて、忘れられがちなのが養護老人ホームや救護施設かも知れません。実は自治体職員の中にも養護老人ホームの存在を知らない方がいるくらいなんです。福祉担当の方も、一度は学んでいても、実態を知らないままの方が少なくないようですね。そうなると対処法を考える場合も介護保険、障害福祉、生活保護しか思い浮かばない……と、なってしまいます。

瀬尾

でも、それぞれ、セーフティネットとして社会に必要な施設ですよね。ライフスタイルの多様化が進む現在ですが、サポートを必要とする方→支援の必要な方の生き方や抱える問題も多様化しています。緊急事態の場合だってある。それぞれが適切なタイミングで適切な支援とつながることは重要です。養護老人ホームも、救護施設も、もっと活用されるべきで。

菊池

そう思います。特に養護老人ホームは、生命の危機と隣り合わせくらいのセーフティネットですから。あと、もうひとつ多くの人に知って欲しいことがあって、それが『措置控え』です。

瀬尾

その言葉、聞いたことがあります。『財政面で困っている市町村では、措置費の支出を抑えるために措置を行わずにいる場合がある』……そんな話ですよね。

瀬尾

正確には、措置の代わりに生活保護で必要な支援やサービスの無い施設や住居での生活を余儀なくされている支援の必要な方々がいます。

菊池

ちなみに、措置控えばかりでまったく措置が行われていない、なんてことはありません。市町村も、本気で必要と考える方には措置を行っています。でも、(措置から)こぼれ落ちている人の存在は感じます。そして、これは全国的な問題なんです。以前は待機もあった養護老人ホームですが、いまは全国で10%の空きベッドがある状態です。

瀬尾

10%……それは施設にとって厳しいですよね。収入的に。スタッフ配置基準などは変わらないわけですし。

菊池

はい。経営が厳しい養護老人ホームは少なくないと思います。でもここで倒れたら、それこそ数多くの困窮する高齢者の行き場が消えてしまう。ちなみに厚生労働省も都道府県も、この状況がわかっているけれど、制度の関係でお金を出すには至らないし、市町村に強制力をもって指導できない状態です。もちろん市町村の担当者の中にも、そうせざるを得ない状況で苦しい思いをされている人はいるはずで……難しい話です。

瀬尾

限りある予算をどう配分するか、環境的・経済的に課題のある方々の行き場をどう手配するか。数字だけでなく、様々な現実と向き合いながら、でも理想も見つめながら、議論や対応がなされて欲しいですね。

「問題を多角的に見つめ、法にも配慮しながら、できることを考え続けたい」と言う菊池さん。

菊池

そうですね。私はまず、養護老人ホームや救護施設の存在と役割を多くの人に知ってもらえたらと思っています。 そして同時に、措置に至らず生活保護となった方の社会参加の機会づくりも行っていけたらと思っています。

瀬尾

詳しく聞かせてもらえますか?

菊池

はい。私たちが養護老人ホームや救護施設の運営をさせていただく中で、生活困窮や生活保護の状況に陥る理由が見えてきています。で、一番気になるのはやっぱりお仕事ですね。仕事につけないからお金がない、だから生保になるわけです。 『生活困窮者自立支援法』ができて、生活保護に至る前に自立のためのサポートをしましょう、ということになっています。ただ、その制度で「こういった支援を」と挙げられている項目の中で、市町村に義務付けられているのは相談と家賃補助のみです。それ以外は、任意事業といって何を実践するか市町村が選べるのですが、ほとんどの市町村が任意事業まで手が回っていない状況のようです。

瀬尾

厳しいですね。社会の格差増大や高齢化進行で生活保護受給者や予備軍が増加する一方で、それをサポートする側のマンパワーが不足しているといったような影響もあるんでしょうが。

菊池

はい。ちなみに任意事業には、貧困家庭のこどもの学習支援などいろいろあるのですが、その中でナザレ園がやるべきだと思っているのは「中間的就労(就労訓練事業)」。最近、茨城県知事から認可を受けたところです。

菊池

ハローワークなどにいっても就職に結びつかない方、就職できない方がいます。理由は様々ですね。履歴書に書ける学歴がないとか、そもそも履歴書かけないとか、知的レベルは高いんだけどコミュニケーションが難しいとか。でも、彼らは障害者手帳を持っていません。手帳を持っていれば、障害者総合支援法のサービスで就労に結びつく支援を受けられますが、手帳のない方は引きこもりがちになってしまうんですね。おうちにいて、仕事にいけない。明日は就職活動しようと思いながら、10年20年30年おうちにいて、仕事はしたいけど、もう今さらどこも雇ってくれないよなあ……そんな諦めの境地に至っていたりします。 でも、その方々がお仕事に一般就労につけるまでのお手伝いとして、あるいは一般就労につけないかもしれないけども中間的就労と呼ばれる方法でナザレ園がその事業を行う事によって、「ここの薪ボイラーに薪をくべるの、2時間くらい手伝ってくれないかな」というお願いの仕方ができます。一回何百円かもしれないけれども、ちょっとはお小遣いもらえるし、「しょうがないな」と動く本人にも行先ができるし、で、薪をくべていれば周りの職員さんから「いつもごくろうさま」「ありがとうね」など声かけされるし、人間関係ができてくる。それで「これができるなら少し難しい事もできるかな」と一般就労に結びつくかもしれないし。そのあたりは、生活困窮に近いところで仕事やらせていただいてきた法人としては、ぜひともやっていきたいと思うんです。そういった支援をしたいと茨城県で手を上げている施設は、ナザレ園だけらしいんですが。

瀬尾

中間的就労、社会参加へのハードルを下げるためにも必要だと思います。できない部分が少しずつ『できる』に変わっていくことは、孤立と貧困から歩み出すためのチカラになるはずですよね。ちなみに、その支援に補助金は出るんですか?

菊池

出ないんですけどね(笑)

瀬尾

(笑)。それでも、なんですね。ちなみに薪ということであれば、メトスでも薪販売をしています。ナザレ園さんと組んで、何か形にできるといいですね。

菊池

ああ、そうですね。私たちは養護老人ホームで、長年薪ボイラーでお湯をわかしていたので、薪作りに取り組み続けてきた流れがあります。職員と利用者さんでやっていました。薪にニーズがあって、中間的就労の仕事も増えていったらうれしいですね。

補助金の有無で判断するのではなく『必要を感じれば行動する』それがナザレ園の創設以来変わらないスタンス。

瀬尾

改めて聞かせてください。福祉施設というと、限られた人のための場所のように感じられがちですが、ナザレ園は地域に開かれた場所を目指されているんですよね。

菊池

その通りです。そのために、これまでご紹介した以外にも、施設の様々な活用法を考えています。例えば、食堂を地域の方が食事に来られる場所にすること。スタッフに障害者を起用して運営したいです。そして、私たちはお風呂の解放も考えています。

瀬尾

お風呂ですか?!食堂、レストランなどはよく耳にしますが、お風呂ははじめて聞きます。面白そうですね。

菊池

私たちも、まだ実現していませんから(笑)。これから、その仕組みを作りたいと思っているんです。 せっかくの新しい養護老人ホームですし「新・薪の湯」には個粋の檜浴槽があるんですから。要介護の方を含めて、地域の方がご利用いただける整備は整ったわけです。理想は「何曜日は利用者さん、何曜日は一般の人」というのではなく、「いつでもいいですよ。利用者さんと一緒に入ってください」だと思っています。それが本来的かな、と。なぜかというと、利用者さんも、一般の人も、みんな地域に住んでいる一市民だと思っているからです。『ソーシャル・インクルージョン』という言葉がありますね。障害者とか、高齢者とかじゃなくて、どんな人でも社会で孤立していないで、みんなが生きやすいようになるといいよねっていう考え方です。1980年代に生まれたものですね。日本ではまだまだこれからなんですけど。

瀬尾

ソーシャル・インクルージョン、少し前にタレントの菊池桃子さんが使われた(政府の提案する『一億総活躍社会』を『ソーシャル・インクルージョン(社会的包括)』と呼び変えることを提案した)ことで認識が広がっているようにも思いますが、その概念まではなかなか浸透していませんね。

菊池

ちなみに『ノーマライゼーション』というのは1950年代に考えつかれた考え方です。日本では、1980年代の障害者年のときに普及した言葉で。でもそのとき北欧ではすでにソーシャル・インクルージョンの「社会で包み、支えこむ」という考え方が生まれていたんですね。 私たちは、ノーマライゼーションという概念を、障害者に特化したもののように感じてしまうんです。障害があっても、普通に暮らせるといいよね……だから段差はない方がいいとか、エレベーターあったほうがいいとか、スロープが必要、障害のある人を差別しちゃダメだよとか。 でも、ソーシャル・インクルージョンには「誰が」っていうのがないんです。みんなが、だから。私たちも、障害をお持ちの方、認知症のある方、地域で暮らしている方、ここの入居者さん、みんなが一緒にお風呂に入っていて当たり前っていう社会が本当はいいだろう、と思っています。だからそれを、段階的にやっていけばいいのかなと。取り組みとしてはハードル低いところからだんだん進めて「これが当たり前だよね」となっていけばいいと思っています。

瀬尾

理想をカタチにして、さらに当たり前にする……かんたんなことではないですよね。

菊池

はい。頑張ります!

瀬尾

応援させていただきます。今日は貴重なお話をありがとうございました!

人にできること、お風呂にできること

地域のサポートを必要とする方ひとりひとりに真剣に向き合うナザレ園の姿勢に感動したり、福祉をとりまく諸問題に触れて考えさせられたり……今回のインタビューは、とても豊かで密度の濃いものでした。知らない側面も多く、学ばせていただきながら改めて高齢者福祉や地域福祉における問題解決の難しさを感じたりもしましたが、同時に福祉に携わる人々の熱い思いや行動力を垣間見ることができたのはうれしいことでした。

話の最後、ナザレ園が取り組もうとする『地域へのお風呂の解放』の話も、お風呂の可能性を感じさせられる面白いものでした。お風呂が、人の苦労をねぎらい心身をリラックスさせるだけでなく、地域の人々をフラットにつなげる場になる可能性。確かに、海外の温浴施設などではサウナが地域の社交の場になっているという話もあります。古くは日本でも、公衆浴場や銭湯が地域の人々の交流のステージとなっていたはずです。プライバシーに欠ける芋洗式の介助入浴の時代を経て、個浴の大切さが叫ばれる近年ですが、個浴も大切にしながら、銭湯スタイルの『誰もが分け隔てなく使えるお風呂』が持つプラスの効果を『地域』『福祉』という視点から見直すことは、とても夢のある話のように思えました。

ちなみにインタビュー中に感じたのは、菊池さんの視点の目まぐるしい変化です。1点にクローズアップしたかと思うと、急にとても高い位置から全体を俯瞰しているといったように、縛られることがなく自由で柔軟。そこに菊池さんの知性でありプロフェッショナル性を感じさせられ、同時に、新しいサービスや理想の在り方を模索するときの大切な在り方を教わったように思いました。

いまメトスにできること、介護浴槽にできることを、改めて見つめたい。そう思わされる時間でした。

社会福祉法人の在り方

「介護施設に通っているものですが。」

以前事務所にこんな電話がかかってきました。

私に取り次いだスタッフも、
「介護施設に通われている方からお電話です。」
日本語の文法通りに解釈するならば、この電話は介護施設の利用者です。
ですが、一介護浴槽メーカーに利用者から電話はかかってこないだろう。
介護施設で働かれている方からではないのか? 電話に出ると、その方は練馬区在住、要介護5の方でした。
「いろいろ介護施設利用しているんだけど、どこもお風呂が良くない。インターネットで検索したら、おたくのお風呂が良さそうだ。利用を検討したいから近くの納入先を教えてほしい。」
とのことでした。
衝撃でした。
弊社の浴槽を良いとご評価頂いたという事より、利用者本人が自分に合う介護施設を探して一介護浴槽メーカーに問い合わせ頂いたという事自体が介護施設の在り方が、もう措置ではないということ。
まだ高齢者人口は増加しており、特養も待機待ち。
数字上は建てば埋まるという頭でいましたが、 歴史の変換点に来ていて、私の想像よりそれが大分早かったということが衝撃でした。
利用者が施設を選ぶ。
そんな時代になりました。

建物寿命は何で決まるのでしょう?
財務省調べですと、構造材料による差はない。とされております。
では何で決まるのか?
プリツカー賞を受賞された坂茂氏は建築物 の寿命は最終的には 「人からの愛で決まる」と思うのです」と、おっしゃっており、それが答えではないのでしょうか?
商業建築においては使われなくなったら利益が出ず、その時点が建物の寿命です。
リノベーションされ利用価値が生まれない限り朽ちていきます。
人から愛される建物が残るという事は3年用と考えていた神戸の紙の教会が10年使われ、台湾に移築されたことからわかります。

社会福祉法人でも同様ではないでしょうか?
利用者、そこで働く従業員、地域から愛される介護施設、法人が残ると私は思っています。
ナザレ園さんは制度の枠組みをこえ、その地域で困っている人がいたら何とかする。
その一つ一つの実践が地域住民の暮らしを支える、なくてはならない安心のインフラとなっているわけです。

最近の私たちを取り巻く状況を私なりに漢字で総括するのであれば、『溝』『分断』『利己主義』です。 ブレグジット、トランプ氏の当選、相模原の事件こんな事があった昨年。
では私は何を希望にどこに向かえばよいのだろうか?
その答えがインタビューに出てくる『ソーシャル・インクルージョン』ではないでしょうか?
どんな人でも喜びと希望を持ち、安心して楽しめる、そんな社会で暮らしたい。
ナザレ園さんのような『ソーシャル・インクルージョン』を実践されている法人は、地域住民のみならず、私含め多くの人の希望です。そのような法人と出会え、わずかばかりでもお手伝い出来ていることに感謝するとおもに、今後もナザレ園さんの活動を応援致します。

外山光(株式会社メトス/ナザレ園担当者)

施設情報

名称/社会福祉法人ナザレ園 養護老人ホーム
住所/〒319-2103 茨城県那珂市中里361番地2
電話/029-296-0315
交通/JR水郡線 常陸鴻巣駅又は瓜連駅より2km
ホームページ/ http://www.nazareen.or.jp

■ 導入商品
個粋のページ / http://metos.co.jp/products/carebath/coiki/
檜浴槽のページ / http://metos.co.jp/products/carebath/hinoki/