個粋導入施設スタッフの生の声を聞きました。

VOICE with

サテライト百楽園 編

2016年5月に誕生した「サテライト百楽園」。現場で働く介護スタッフのこだわりが随所で反映されたというこの施設では、浴槽に「個粋チルト」「個粋コンパクト(旧「個粋」)」そして「エリーゼ・ロス」が導入されています。

今回の記事では、施設のご紹介と共に、介護主任へのインタビューの内容をお届けします。ちなみに今回のインタビューでは、多忙な現場で生まれたスタッフとしての思い、〈理想のケア〉とその実現に向けた取り組み、そして浴槽の選択をはじめとする〈住環境整備〉にあたって貫いたこだわりについてなど、興味深い話が満載です。ぜひご覧ください。

サテライト百楽園とは

施設外観。周囲には本体となる「百楽園」の他、同系列の施設が並んでいる。尚、百楽園は、平成4年に開設、平成12年に増床。そして平成28年にサテライト百楽園を開設している。

最初に今回、個粋シリーズ3台およびエリーゼ・ロスが導入されたサテライト百楽園についてご紹介します。

サテライト百楽園は、隣接する「特別養護老人ホーム 百楽園」を本体とするサテライト型居住施設です。定員は29名。9〜10名が1グループとなって生活、個別ケアを受けるユニットケア方式が採用されています。施設では「生活の中にリハビリを取り入れ、日常生活動作の維持・向上を図りながら、個人の意見や生活ニーズ、健康状況に合わせたケアを提供する」というテーマを掲げています。

施設内は「西通り」「東通り」「南通り」と3エリア(3ユニット)に分けられている。こちらは共同生活室の中のリビング部分。

共同生活室のダイニング部分。共同生活室は個々の部屋の入口とつながっている。ちなみに部屋名は「1番地」「2番地」と住所的に表され、それぞれが個人の家として扱われる。

浴室に設置された個粋チルト。浴室は一見普通に見えるが、浴槽選びや浴槽縁の高さ設定などに介護スタッフのこだわりが活かされている(詳しくはインタビュー部分で)。

移動式寝浴用介護浴槽のエリーゼ・ロスは、看取り期を迎えたゲストのためのお風呂として導入。ゲストの暮らすユニット(エリア)に移動させて利用されることが多いという。

百楽園(およびサテライト百楽園)のユニークなところは、入居者およびその家族を〈ゲスト〉、スタッフ全員を〈ライフサポーター(伴走者)〉と考え、呼んでいるところ。百楽園園長の石津俊之さんにその呼び方について伺うと、以下のようなコメントをいただけました。

「これは系列施設ではじまっていた呼び方を百楽園開設時に導入したものです。ゲストと呼ぶことで、相手がどのような視点で関わりを持つ対象か、スタッフも認識しやすくなります。そしてライフサポーターという呼び方で、自分たちの役割(ゲストの生活をサポートする立場であること、共に歩む)を忘れずに関わり続けていけます。日々の中で、何か問題にぶつかったときに自分たちがどうあるべきか立ち返るためにも、大切にしている考えです」

園長の石津さん。百楽園を運営する函館厚生院における勤務歴は長く、人材育成目的で行われる法人施設内の人事異動も7回ほど体験。法人や施設の在り方、そして現場を熟知している。

尚、石津さんによると、社会福祉法人函館厚生院の創設はなんと1900年(明治44年)。貧富の差が激しかった当時の函館で、三人の篤志家(社会福祉や慈善事業などに熱心な人)が地元の寄るべなき老幼病者を保護したのが誕生のきっかけだといいます。全国的にも歴史ある法人で、函館市内でも市役所についで職員数が多いなど地域にとっても大きな存在です。

そんな函館厚生院では代々「地域から必要とされる存在でなければならない」というテーマが掲げられているとのこと。季節行事などで地域のこどもたちと施設のゲスト(高齢者)とのふれあいを生み出すなど、地域とのつながりを意識した取り組みも行われているそうです。

教育熱心な石津さん。ニュースにも取り上げられる老人への虐待についても「原因はよく言われる〈ストレス〉よりも施設理念や虐待の概念などがスタッフに浸透していないことでは」と語ってくださった。

現場インタビュー

想いと環境でケアは変わる 

〜努力とこだわりで実現したあずましい入浴〜

INTERVIEWEE

サテライト百楽園 介護主任 稲田さん

百楽園介護スタッフとして16年間入浴その他の介護を担当。サテライト百楽園の設計に介護スタッフ代表として携わっていた。

INTERVIEWER

瀬尾卓志(せお・たくし)

1997年より老健施設で介護福祉士として勤務。2002年より川崎医療福祉大学でプロダクトデザインを学ぶ。メトス入社後、個粋の開発にも携わり、個粋には人一倍愛着をもっている。

瀬尾

最初に、稲田さんは「サテライト百楽園」の設計に関わったとうかがっていますが、どのように関わられていたんですか?

稲田

介護スタッフを代表して、設計士さんに現場の要望をお伝えしていました。といってもイメージなどではなく具体的な依頼が多かったので、設計士さんにはご苦労をおかけしましたが(笑)。

瀬尾

そのあたり後で詳しく聞かせてください(笑)。ちなみに設計に現場スタッフが関わることはこれまでもあったことですか?それともはじめての経験だったのでしょうか。

稲田

ここまで幅広く現場の介護スタッフに任せてくれたのは、このサテライト百楽園がはじめてでした。厳密には、少し前(2015年)に行われた百楽園の浴室改修工事の頃からですね。 本体には大きい大浴場、臥床式の特別浴、使用されていない階段で入る埋め込み型の浴室の計3か所があります。

瀬尾

パンフレットでも紹介されている大浴場ですよね?

稲田

大浴場は浴槽も広くて、壁には大きく駒ケ岳の絵が描かれていて、すごく喜ばれるんです。手すりも豊富で、歩いて入れない方のための車椅子スロープもあって。ただ、介護保険制度の影響で、特養に入れるゲストの要介護度が1〜5、さらに介護度3〜5になり……。そうなるともう、歩いてお風呂に入れない人の方が多くなっちゃうんですよね。 専用車椅子で、スロープを使って湯船に入らないといけない人の方が多い。結果、湯船に入るための車椅子の順番待ちが常に起こっていて、それにスタッフが必死に対応するっていう毎日になってしまったんです。

描かれているのは地元の山・駒ケ岳。壁画や浴槽の広さはゲストに好評だが、車椅子に乗ったままでの入浴者が一気に増加したことで、スタッフにもゲストにも負担がかかることになってしまった。

稲田

2時間半程度の間に20人~23人程度のゲストを5名のスタッフで入浴介助を行っており、「急がなくちゃ」「何時までに何人、入れなくちゃ」となってしまっていました。効率化を考え、分業制をとったというか、スタッフの仕事を〈ゲストを脱衣所に連れてくる人、脱衣所で服を脱がしたり着せたりする人、浴室で身体を洗ったり湯船に入れる人〉と分担していたんですが、時間に追われて、身体を洗って温めて、「あと何人、何人」と思いながら、入浴介助しながら顔を上げる暇もない。「こんなお風呂でゲストは満足しているのだろうか?」って、ずっと思っていました。

瀬尾

そうですよね、重労働があるだけで、コミュニケーションがない介護はつらいですよね。

稲田

せっかく、一対一で関われる入浴介助の時間をゲストと話したいんですよ、おしゃべりがしたい。ゲストの皆さんひとりひとりの背景だとか、娘さん、息子さんの話だとか、若い頃の話を聞きたいというか。ゲストの皮膚の観察や清潔保持だけの入浴介助をしたくないな、って気持ちがあったので。 でも、それができない……という状況が続いたことで、「ただただ大変な入浴ケアから、ゆっくりできるお風呂ケアへ変えよう。そのためには、一人一人のケアを始めから終わりまで一人の職員が担当する、担当制を導入しよう」と個別入浴(グループ入浴)を行ったんです。

瀬尾

個別化というのは、具体的にどういうことですか?

稲田

分業制を辞めたんです。というか、分業の仕方を変えました。作業で分けるんじゃなくて、ゲストごとにグループで分けることにしたんです。 まず、スタッフそれぞれに担当ゲストを数人決めて。スタッフは自分が担当するゲストを自分で迎えに行き、脱衣を手伝い、お風呂に入れて、またお部屋まで連れて帰る。その繰り返しをしようって。 そうすることで、ひとりひとりにゆっくり関わって、お話もたくさんできるようになりました。さらに、ゲストのペースや時間を尊重した「待たせないお風呂」に変えることができたんです。

瀬尾

いいですね!しかもそれって、すごくユニットケア的ですよね。

稲田

そうなんです!ちょうどその頃から、ユニットケアに興味を持って。同時に個浴についても、浴槽などの環境作りについても学びました。資料を読んだり、講習会や展示会に出向いたり。 そんなことをしながら〈お風呂の個別化〉を続けて……一年くらい経った頃、その取り組みを評価されて。「本体(百楽園)の使用していない浴室改修工事にあたって意見を聞かせて欲しい」と言われたんです。

瀬尾

すごい!それはうれしい展開ですよね。

稲田

はい!しかもその頃、方法を変えることでできることの限界を感じていたので。「ソフト(方法や人材)の限界を補うものは、ハード(浴槽などの環境)だ!」って(笑)、もう、すごくこだわりました!

「こだわっちゃったんですー!」と笑う稲田さん。こだわりを貫くために、そして自身の判断が間違っていないか確認するために、多大な時間を要したらしいが、その苦労を見せない明るい笑顔で話してくれた。

瀬尾

結果として、その浴室改修工事で弊社の浴槽「個粋チルト」や「個粋(現・個粋コンパクト)」を導入していただいているわけですが、そのときに個粋を選んでいただいた理由というか、浴槽選びの基準は何だったんでしょうか?

稲田

コンセプトはあくまで〈普通のお風呂〉でした。なので、余計な機械音がするものや、複雑な操作があるものは選びたくなかったんですよね。

瀬尾

普通のお風呂にこだわった理由は何だったんですか?

稲田

やっぱり高齢者の好きなお風呂にしたかったというか。これまでの生活、文化の延長線上にあるお風呂にしたかったんです。例えば、お湯には肩まで浸かるっていうのが日本のお風呂文化ですよね。そういう当たり前のことを、できるだけ満たしたかったんです。 個粋にたどりつくまでに、けっこういろんなお風呂を見せてもらったんですね。その中で、カタログなどでは〈普通のお風呂を目指した〉〈家庭的なお風呂〉と書かれていた商品もいくつか見ているんですが、動作のときに「ピピピ!」とアラーム音が鳴るものだったり、浴槽の壁がスライドして開いたり「普通のお風呂(浴槽)って、そうじゃないよね?」と考えてしまうものも多くて。

瀬尾

介護浴槽の多くは、普通の浴槽では入れない人が使用するものですし、動きの不自由を何らかの形で機械がサポートするものなので、どこかに機械感は出てしまうことが多いですね。それらをどこまで消すか、気にするかという点に商品の差であり魅力が出てくる気はします。 メトスの個粋も、椅子昇降リフトを採用している点では機械感があると思うんですが、そのあたりは気になりませんでしたか?椅子の上げ下げで怖がられたりとか。

稲田

椅子の動きに怖さを感じたという方、まだいないですよ。本体施設の浴室改修後とサテライト配属の職員は全員、メトスさんから操作方法のレクチャーを受けていて、そのときに操作側と入浴者側とそれぞれ体験しているんですが、みんなまったく怖がることがありませんでした。特にエリーゼ・ロスなんて、動いているのかどうかわからないくらい。どちらの浴槽も、思っていたより動くスピードが遅いというか穏やかで。あのスピードはこだわったんですか?

瀬尾

はい。私たち個粋を作るにあたって、いろいろこだわっています(笑)特にスピードと高さにはかなりこだわりました。

稲田

高さ!私もこだわりました。それで設計士さんに煙たがられたりもして……(笑)。

瀬尾

(笑)。詳しくうかがってもいいですか?

稲田

はい。ポイントはいろいろあるんですが……例えば工事の部分で。私、浴槽縁の高さや、椅子の座面の高さ、そういったものを「とにかく40cmにしてほしい!」って、しつこくお願いしていたんです。それに対して「40cmにこだわるのはなんでだ?!」って言われて……(笑)。

瀬尾

(笑)でも私も、40cmにこだわった理由は気になります。

稲田

私、「どうしたらゲストが動きやすくなるだろう」って考えて。それで、当時のゲスト全員の床から膝下までの高さを測って平均値を出したんです。それと、スタッフの膝下の年代別平均を割り出して。それらを足して2で割って、ネットで世代別・身長別・男女比などを調べたりして……。その数値が40.3cmだったんです。

瀬尾

はー……!(感嘆の声)

稲田

それで「40cmでいこう!」と……。トイレは足をしっかり床に着けて踏ん張れるように、近い数字のトイレを建築士さんにもご協力いただいて、探してもらって、41.8cmに決めたんです。普通、高齢者施設は立ち上がり介助がしやすいように、福祉用便器を選んでいたりするのですが、それでは高すぎて足がしっかり床につかないので踏ん張ることが出来ないんです。

瀬尾

納得できるまで調整したんですね。

稲田

はい!洗面台やテーブルの足も、既成品をカットしたりして。

瀬尾

いやー、そこまでこだわっている方に出会えるとうれしいです!ちなみに個粋のバースチェアの座面って、低いところが床から40cm、高いところが42cmなんですけど、この理由ってご存知ですか?

稲田

知らないです、わからないです。

瀬尾

これ、私と喋る人としか聞けない話なんですが(笑)。 実は、個粋を開発したのは,いまでも車椅子業界、中でもシーティングの分野で権威ある方なんですね。その人が持たれていた研究結果に興味深いものがあって。それは、座面(の低い部分)が43cmくらいの、座ると足が浮いてしまうような車椅子を使うと、身体(上体)が後ろに倒れたり不安定になったりして食事がうまく食べられなくなるなど、日常生活動作や栄養面に影響があるというものなんですね。でも、40cmとか、人の膝下寸法に合わせて調整すると、足の踏ん張りが活かされて落ち着いて食事をとることができる。これは片麻痺などで片足の踏ん張りしか効かない人にも言えることで。しかも、そうやって残存能力を活かして成功することが増えると、「自分で何かをしよう」っていう意欲にもつながる……そんな研究結果があるんです。

稲田

そうなんですね!でも、現場の実感としてわかる気もします。

瀬尾

関わっていると、わかりますよね。 そして個粋は、この研究の視点を活かして作られています。それでバースチェアの座面高が40cmなんですね。あれを見て「低すぎるんじゃないの?」「立ち上がりがちょっとしんどいんじゃないの?」っていうご意見はあるんですが、やっぱり自立を促すというか、いま自立できていることを守り支え、応援するというコンセプトで個粋は作られているので。自分で踏ん張ってもらう、踏ん張れるようにする。40cmにしたことに意味があるんです。 鏡を前にして身体を洗うにしても、足が浮いていたらうまく洗えないですよね。やっぱり片足でもしっかりと地面につけて踏ん張れたら、身体も自分で洗えるところは洗おう、難しいところは介助してもらうかなってことになる。その、次への動作、次への意欲っていうことにつながるっていうのが、いいと思うんですね。

稲田

ほんと、そうですよね!

瀬尾

ですから、ピッタリなんですよね、稲田さんが導き出された40cmという数字は。ビックリしました(笑)

稲田

こだわってよかったです(笑)!

瀬尾

ピッタリです(笑)、はい。

各個室のトイレにも、踏ん張りやすい高さに設定された便器や、立ち上がり動作用の前傾姿勢保持テーブルの設置など、ゲストの動きの自立をサポートするための徹底した配慮がなされている。

個粋の開発現場を知る瀬尾が、当時を振り返りながら個粋バースチェアの座面の高さについて語る。入浴者(介護を受ける人たち)への思いは、介護福祉士をしていた頃から変わらない。

瀬尾

ちなみにエリーゼ・ロスの方はどうですか?活用されていますか?

稲田

はい。いま、サテライトには入居中のゲストが20人いるんですが、うち1人が利用対象です。 うちは看取りケアも行っているんですが、最後の最後までお風呂には入っていただけるようにしているんですね。でもそうなったとき、姿勢保持などの面で個粋プラスだと限界があるんです。なので、エリーゼ・ロスを導入してよかったと思っています。特にいいのは、移動できるところですね。利用するゲストの部屋(ユニット)の場所も都度違うので、ひとつの浴室に固定された寝浴だった場合、移動効率も悪いし、大変だったと思います。

瀬尾

ほんとにそうですよね。エリーゼ・ロスは、看取りを前提に作ったお風呂なので。このサテライト百楽園のような部屋のレイアウト(ほとんどの個室が広い共有スペースとダイレクトにつながっている)だったら、浴槽(エリーゼ・ロス)にお湯を入れてもらって、それを部屋へ運んでもらって、そのままベッドから移乗……ということも可能です。廊下や脱衣所を通過しない分、ヒートショックの原因になる室温の変化もありませんし。そういうことができるのは、エリーゼ・ロスの非常にいいところです。

稲田

そうですね。でも……本当は「最後まで個粋で行きたい」って気持ちがあるんですよね。

瀬尾

ああ!それは、私も同じ意見です。それはもう、絶対というか、できる限り個粋を使っていただきたいんです(笑)

稲田

そうですよね(笑)!そうなんですよね! いまエリーゼ・ロス対応となる方も、本当に最後の最後まで粘ってトライしたんですね。でも、もう骨盤が前に倒れないというか、股関節が90度曲がらない方なんです。何をするにしても、のけぞってズルズルと滑ってしまって。施設所属の作業療法士にも動きをチェックしてもらったんですが、やはり危険だということで、個粋での入浴を諦めました。

瀬尾

動きや体力、体調面に合わせて入り方を選ぶことは、大事なことだと思います。 ちなみに、個粋を導入していただいたとき、取扱い説明をする際にお話させていただく話があるんです。それは「できるだけ長く個粋を使ってもらって欲しい」ということなんですね。長期に渡る施設における生活の中で、入居者一人ひとりに長く使って欲しいと。最初は歩けた人が、車椅子になり、寝たきりになる……そういう流れの中でも、ずっと使っていけるのが個粋なんです。特に最近では個粋チルトや個粋コンチェルトがリリースされたことで、より長く同じ浴槽を使ってもらえるようになりました。 と、宣伝になってしまいましたが……(笑)。でも、元気なうちに手すりを使ってもらったり、移乗ボードを使ってもらったり、極力ご本人のチカラで入ってもらいたいんですよね。そうすれば、もし車椅子や寝たきりの生活になっても、椅子リフトを使って、また同じお風呂に入れるんですよね。 何より、長い生活の中で「座ってお風呂に入ること」を意識して欲しいなと思っています。やっぱり、寝て入るっていうと、生きる気力を失うとか、ボーっとしてしまうというか、意識面にも影響してくると思います。知人の理学療法士によると、身体を起こすことは意識面への刺激にもなるそうです。 看取り期を迎えた方や、体力が落ちた方など、やっぱり寝て入らなきゃいけないときもあると思うんですけど、無理のない範囲で、でも可能な範囲で粘って(笑)、身体を起こして入って欲しい……と思っています。

稲田

本当に、できるだけ起こして入れてあげたいというのはあります。 施設で個粋で入浴されるゲストのうち、半数は普通のバースチェアで、半数はチルトを使っている状況です。身体を起こして入れてあげたい、でも姿勢保持などの面で少し不安がある方にはやっぱりチルトが便利なんですよね。サテライト百楽園、それ以前に本体の百楽園で個粋を導入することを決めた理由のひとつに、チルトの存在はあります。もしチルトがなかったら導入していなかったかもしれないです(笑)。

瀬尾

(笑)。個粋チルト、比較的新しいラインアップなんですが、そうやって役立っているとわかるのはうれしいです。ありがとうございます!

稲田

最後にもう少しいいですか?

瀬尾

お願いします。

稲田

サテライト百楽園が完成したとき、施設見学の案内をさせてもらったら、いろんな事業所さんが見学にきてくださったんですね。中には、在宅の方を担当されている地域のケアマネさんなどもいらっしゃったんですけど、見学の際に、高さの設定だったり、浴槽選びだったりについて説明するたびに「ここまでお風呂やトイレにこだわって建てているところはないよ」「現場の声が届いた施設はなかなかないと。」って言われました。

瀬尾

そうですね。施設の姿勢、想いが現れやすい場所ではあると思います。

稲田

そうですよね。ちなみに、本体(百楽園)の浴室改修工事で導入した個粋がゲストに満足して頂けるか不安だったんです。「あずましいねえ」って言ってくれたんですよね。

瀬尾

あずましい?

稲田

北海道弁で「気持ちいいねえ」って意味なんです。リラックスして出てきた、地元の言葉。最高の褒め言葉ですよね。何よりゲストからの評価が良かったことが、本当に嬉しかったです。「このお風呂を導入して良かった!」って心から思いました。それがあったから、サテライトの導入に繋がって、絶対これでいこう。譲らないって(笑)

瀬尾

それを聞いて、私たちもうれしいです!

稲田

これからますます団塊世代が増えて、大浴場より個浴を好む人が増えるだろうと感じています。とはいえゲストも、個浴を好きな人ばかりではないんですよね。中には広い場所で大勢でワイワイ入りたい、大浴場が好きな方もいらっしゃいます。あと、浴室でスタッフとマンツーマンになることを好まない方もいます。そういうゲストには、大浴場に入っていただいて。好きなお風呂を選んで入っていただけるのが、いまの百楽園のいいところですね。

瀬尾

ゲストの体調や健康状況、そして気持ちが尊重されたお風呂……本当に素晴らしいです。 今日は、現場の熱い思いを感じられるお話を色々伺えて、とてもいい時間でした。稲田さんのように真摯で温かい心を持つ現場スタッフさん達から個粋を選んでいただけていることを誇りに思います。私たち浴槽メーカーにできることをもっと頑張ろうと思いました。今日は本当にありがとうございました!

稲田

こちらこそ、ありがとうございました!

「人を尊重することで引き出される可能性」

今回のインタビューを通して素晴らしいと思ったのは、何と言っても稲田さんの行動力です。全ゲストそしてスタッフの膝下を計測して動作をしやすい椅子座面の高さを割り出したり、講習会や展示会に出かけたり、自身の理想に見合う浴槽を追求したり……なかなかできることではありません。多忙な現代、何かあればネットで調べて理解した気になって終わり……となることも少なくない中で、徹底的に〈自分で確かめること〉をされていたのにも感動しました。

同時に感心したのは、ゲスト一人ひとりを人として尊重し、さらに自分たちの想いをも自ら尊重した彼女たちの在り方です。その〈尊重〉が彼女たち自身の考え・行動を変え、状況を変え、環境を変えるまでに至ったことはとても素晴らしい流れだと思います。また、現場スタッフの思いと行動力を信じた園長他施設側の判断、そして最初は戸惑いながらも共に理想の環境をつくりあげた建築士さんたちの仕事にも感動しました。それも言い換えれば、現場スタッフを周囲が尊重した、と言うこと。その〈尊重の連鎖〉が、百楽園をより魅力ある場へと成長させたのだろう、と感じずにいられません。

〈人を尊重することから施設の可能性は引き出される〉そういうとても基本的で大切なことを改めて確かめさせてもらった時間でした。

施設情報

名称/地域密着型介護老人福祉施設サテライト百楽園
住所/〒042-0955北海道函館市高丘町3-1
電話/0138-57-3611
交通/JR函館駅より車で15分
   (函館バス 高丘町下車約100m)
<ホームページ>http://hyakuraku.koseiin.or.jp